第3話: 「不思議な出来事」
星川凌との初めての接触から数日が経った。彼は相変わらずクールで、クラスメイトとの距離を保っていた。女子たちの間ではそのミステリアスな雰囲気が一層の人気を集めていたが、彼が誰かと深く関わることはなく、ただ静かに自分の時間を過ごしていた。
私も、彼との会話がその後進展することはなかった。放課後、あの日教室で感じた違和感と机が揺れた瞬間のことが、頭から離れない。まるで一瞬だけ別の世界に触れたような感覚があり、それが気になって仕方がなかった。彼にもう一度話しかけてみようと思いつつも、距離を縮めることができないまま、時間だけが過ぎていく。
そんなある日、またしても奇妙な出来事が起こった。
その日は昼休み、私は友達と一緒に食堂へ向かっていた。食堂の前はいつも混雑していて、席を確保するのに苦労する。私は友達の香織と一緒に、運よく空いていた窓際の席に腰を下ろし、手作りのお弁当を広げた。
「ねえ、美希。あの星川君、やっぱりカッコいいよね。なんであんなにクールなのに話しかけづらいんだろう?」香織は、少し頬を赤く染めながら星川凌の話題を持ち出した。
私は口に入れていた卵焼きを飲み込み、少し考えた後に答えた。「うーん、確かにね。でも、なんか一人でいるのが好きそうな感じだよね。」
「そうなのかな?でも、もっと話してみたいなぁ。ねえ、今度一緒に話しかけてみようよ!」香織は楽しげに提案する。
私は内心、少し戸惑っていた。確かに彼は魅力的だし、興味がないわけではない。だけど、あの日感じたあの奇妙な出来事のせいで、ただ近づくだけではいけないような気がしていた。
「うーん、私はちょっと遠慮しておくよ。なんか、あんまり干渉しないほうがいいんじゃないかなって…」私は曖昧な返事をした。彼が何かを隠している、そんな気がしてならなかったからだ。
そんな話をしているとき、ふと目の前の食堂の壁に貼ってあった掲示ポスターが、風もないのにゆっくりと剥がれ始めた。誰も触れていないのに、まるでポスターが自ら意思を持って動いたかのようだった。私はその瞬間を見逃さず、目を丸くした。
「えっ、今の見た?」私は香織に尋ねたが、彼女は何も気づいていなかったようで、ポスターが床に落ちた音すら聞こえなかったらしい。
「見たって、何を?」香織はきょとんとした顔をしている。
「いや、今ポスターが勝手に剥がれたんだよ。誰も触れてないのに…」私は少し興奮しながら説明するが、香織は信じていない様子だった。
「またまた、そんなことあるわけないじゃん。風か何かでしょ?」と笑い飛ばされてしまった。確かに、ただの偶然かもしれない。だけど、私にはそれが単なる偶然とは思えなかった。
その時、私の視線は自然と食堂の端の方へ向いた。そこには、さりげなく一人で昼食を取っている星川凌の姿があった。彼は何事もなかったかのように食事をしているが、私の心の中には一つの疑念が浮かんでいた。もしかして、あのポスターが剥がれたのは…彼が関係しているんじゃないか?
「美希、どうしたの?」香織が不思議そうに私を見つめていた。
「ううん、なんでもない」と答えながら、私は星川凌の方を見続けた。何かがおかしい。彼の周りには、普通じゃないことが起きている。それを確信し始めた。
放課後、どうしても気になった私は、帰り道に彼の後を少しだけ追いかけることにした。普段ならそんなことはしないが、彼のことをもっと知りたいという気持ちが抑えきれなかった。
星川凌は静かに学校を出て、住宅街の中を歩いていく。私は少し距離を置いて後を追いかけた。彼が歩くたびに、その周りの風景がどこか異様に感じられる。まるで彼が周囲の空気を変えているかのようだ。
そして、彼がふと立ち止まった。私は思わず身を隠し、息を潜めた。星川凌は周りを見渡し、誰もいないのを確認すると、静かに何かを呟いた。その瞬間、彼の手元に淡い光が現れ、空中に何かが浮かび上がる。
「えっ…?」私はその光景に目を見開いた。彼は本当に、普通の人じゃない。魔法――そう思わざるを得なかった。
彼が何者なのか、その正体に対する確信が強まった瞬間だった。そして私は、これから自分が彼の秘密に巻き込まれることになるのだと、直感的に感じた。としての彼の謎に迫る展開となっています。