第2話: 「初めての接触」
星川凌――クラスに突然現れた謎めいた転校生。彼は初日から教室の中心的存在になった。見た目の完璧さだけでなく、何か特別なオーラを放っている。私とは違う世界の人だと思いながら、彼のことをぼんやりと気にかけるようになっていた。
それは、彼が普通ではない雰囲気を醸し出していたからだ。まるで周りの人間を気にしていないような振る舞い。クラスメイトが話しかけても、彼は一言二言、そっけなく返すだけで、深く会話に入り込もうとはしない。なのに、どこか優雅で気品がある。その態度が、まるで彼自身の秘密を隠しているように見えてならなかった。
私がそんなことを考えていると、放課後の教室でふとしたきっかけが訪れた。
放課後、私は授業のノートを整理するために一人残っていた。教室の静寂に包まれながら、机に向かっていたところ、ふいに背後から声が聞こえた。
「ここで何してるんだ？」
驚いて振り返ると、そこには星川凌が立っていた。クールな表情で、しかしどこか興味を抱いているような瞳で私を見つめている。
「あ、ノートの整理をしてただけだけど…」私は少し戸惑いながら答える。彼が私に話しかけてくるなんて、予想もしていなかったからだ。
「そうか」と彼は短く返し、そのまま隣の席に座った。何かを話したいのかと思ったけれど、彼はしばらく何も言わずに窓の外をぼんやりと眺めている。静かな時間が流れ、私はどうしていいかわからなくなってしまった。
「星川君、どこから転校してきたの？」私は不意にその質問を口にしていた。ずっと気になっていたことだし、少しでも会話のきっかけを作りたかった。
彼は少し驚いたように私の方を見て、再び窓の外に視線を戻す。そして、しばらくしてから小さく呟いた。「遠いところから…」
曖昧な答えだった。どうしても彼は多くを語ろうとはしない。だが、その短い言葉からも、彼が普通の転校生ではないことを感じ取った。まるで、彼の背負っているものが別次元のように思える。
星川凌は、まるで他人との距離を保つような態度を取っている。それでも、何か特別なものが彼を包んでいるのは確かだった。まるで世界に一人だけ異質な存在のように。
彼のプロフィールを考えると、気になることがいくつもあった。まず、彼の見た目。黒髪はまるで夜の闇を思わせるように深く、きらめく瞳はどこか遠くを見つめているようだ。顔立ちは整っていて、無表情でもクラスの女子たちが熱狂するのも頷ける。だが、そんな外見以上に、彼が持つ特別な雰囲気が何よりも異様だった。
どこかミステリアスで、孤独感すら漂わせる。普通の高校生には似つかわしくない、そう感じてしまう。だけど、それが彼の魅力でもあるのかもしれない。彼はまるで、自分の世界を守るために周囲から距離を置いているように見えた。
「君は、どうしてここに残ってるんだ？」星川凌は再び質問を投げかけた。
「うーん、別に特に理由はないけど…たまには一人で静かにしたい時もあるからかな」と私は答えた。
彼はその言葉を聞いて、少しだけ微笑んだ。今までの無表情な彼とは違う、少し柔らかな表情だった。その微笑みに、私は驚いた。彼もまた、心のどこかで孤独を感じているのかもしれない、そんな風に思ったのだ。
でも、その時、教室の机が突然軽く揺れた。風もないのに、まるで誰かが触ったかのように机が動いたのだ。
「えっ？」私は思わず声を上げてしまう。星川凌はその場にいて、何も動いていない。それなのに、机が揺れたのだ。驚いて彼の方を見ると、彼は何事もなかったかのように視線をそらしていた。
「どうして机が…？」と私が聞こうとした瞬間、彼はさっと立ち上がり、背を向けて教室のドアに向かって歩き出した。
「またな」と言い残して、彼は教室を後にした。
私は呆然とその背中を見送るしかなかった。あの微笑み、そして突然の机の揺れ…。何かが確実におかしい。彼は普通の高校生じゃない。けれど、その謎に迫ることができないまま、私は一人、静かな教室に取り残された。
彼の持つ不思議な魅力と、隠された秘密に気づき始めたこの瞬間が、私たちの奇妙な関係の始まりとなったのだ。
