第1話: 「平凡な日常の崩壊」
私は、どこにでもいる普通の高校生だ。特別目立つわけでもなく、何か特技があるわけでもない。名前は桜井美希見た目だって、華やかさに欠けるかもしれない。肩までの茶色い髪を軽くまとめるだけで、化粧もほとんどしない。友達は、まあそこそこいる。学校生活に不満があるわけじゃないし、平凡な日常を心地よく思っている。
毎朝、母が作ってくれた弁当を持って家を出るのが日課だ。朝の通学路は、近所の人と「おはようございます」と軽く挨拶を交わしながら歩く。特に気にかけることもなく、学校までの道はいつも同じ光景が広がる。朝の光が木漏れ日を作り、ちょっとだけ清々しい気持ちになるのが好きだ。
クラスメイトともそこそこ仲がいい。放課後には友達とカフェに寄って、テストや好きな音楽、たまには恋バナなんかを話しながら、日々を過ごす。友達が好きなアーティストのライブに行く計画を立てるのを聞きながら、私はいつも「いいなぁ」と羨ましそうにしているけど、特別それを気に病むこともない。私には、私のペースがある。
ただ、そんな毎日を淡々と送っている中で、ふと「このままでいいのかな」と考える瞬間もある。特別な目標や夢があるわけではないし、将来についての具体的なビジョンもまだぼんやりしている。だけど、焦る気持ちはない。日々の生活に少しずつ満足していたからだ。
それでも時々、もっと何か「特別なこと」があればいいなと思うこともある。たとえば、突然自分に才能が見つかったり、ドラマチックな恋愛が始まったり。そういう映画やドラマみたいな展開は、私には関係ない話だと思っていた。
そんな私の平穏な日常が、ある日を境に大きく揺らぎ始めた。
新学期の始まりに、突然クラスに転校生がやってきた。教室がざわつく中、担任の先生が「星川凌君だ」と紹介する。彼は、まるで映画に出てくるような完璧な見た目だった。黒髪で長身、クールな表情を浮かべながら、何か一線を画した雰囲気を漂わせている。クラスの女子たちがざわざわと話し始めるのが耳に入る。「かっこいい!」とか、「まるでモデルみたい」とか、そんな囁きが飛び交っていた。
私は、そんな彼を遠巻きに見つめるだけだった。だって、こんな完璧な転校生が私に関わるわけがない。そんな風に決めつけて、私はいつも通りの席に座り、授業を始めるのを待っていた。
だけど、星川凌の存在は、どうしても気になってしまう。彼がどんな人なのか、どうして転校してきたのか。彼が教室の隅に座ると、教室全体が何となく引き締まるような、そんな不思議な空気を感じた。
「桜井さん、あの転校生のこと、どう思う?」と友達の香織が小声で話しかけてきた。私は少し考えた後、「うーん、別に特に何も…」と、曖昧に答えた。確かに彼はカッコいいし、ミステリアスな感じもするけど、それ以上のことはよくわからない。私にとって、星川凌はまだただの転校生に過ぎなかった。
けれど、この転校生との出会いが、私の日常を大きく変えるとは、この時は想像もしていなかった。彼と過ごす日々が、平凡な毎日から一気に非日常へと変わっていくのだ。