第97話 複製体:ジグソー
デジタライズトランプというやつ、あれさえあればほとんどのマテリアール獣を封じ込めることのできる……なるほど、メルキオたちが執心するわけだ。
(本質的にはカテドラルモノリスと通底する力。
マテリアール獣を封じる点では、パビリオンより手早く反応できる。するとそんなものを四つも手にしたナンバーはこの先、バルタザールたちにどう扱われるの?)
ジグソーもロックやらその種のサブカルに傾倒していたこともあり、反骨精神ないし反権力的な気質は標準的に備わっており、賢人たちの思惑が彼を危険へ誘うなら、それを見過ごせない。
(あの形態、やはり消耗の激しいようね。
戦ってから帰ってもう《《何戦》》、てわけにいかないか……)
いや、いくら戦闘で発奮するにしてもそういう妄想はほどほどに弁えるよ?
それじゃあまるで、自分が戦闘中までそういうことしか頭にない、
「はしたない子」「!」
ジグソーと対峙する複製体は、先ほどから『ジグソープレートサーキュラー』を複数枚顕現させて、豪快に押し掛けていた。
ジグソー側も同じ技で踏ん張っているが、揺さぶりを聞いて、一瞬ぴたりと足の止まる。
「あによッ!?」
「それまでその気もなかったくせ、いきなり魅那に迫って困らせたりして」
「それは……」
「いくらウィズに抜かれてたからって、焦ってみっともないとは感じなかった?」
「でもそれって今関係あります?」
ジグソーも苛立っているが、己の為さねばならないことを見失ってはいない。
「碑郷のみんなを護るのに」
「チャトランの口車に乗せられて、皆で碑郷を出た時、あなたたちはなにをあいつに伝えたと?
なにも話さなかったじゃない。
あなたたちが離れている間、ナンバーがいなくては碑郷の防衛など成り立たなかった、今さっきのメビウスの言葉も聞こえたでしょう?
あれは碑郷の味方にはなり得ない、あの男を独りだと罵ったあなたは――碑郷を見捨てて、そのとき何をしていたの」
「ッ、《《それでも》》――」
まさにそのときと同じなのだ。
ルービックを傷つけてなお、碑郷を護る、己の意志を完遂する芯を持った彼は……たとえ紛い物のクラフト使いだろうが、その意志はまぎれもない本物だ。
批難されるべきは、私たちの無知と無能にあったなら。
「あいつはそう言って、私たちが惑った時間を、踏みとどまってくれた。
帝国ではできない、碑郷でそれをできるかだって定かじゃない――でもねぇ、可能性ならあるから。
開き直りならそれで結構、帝国や王成、クラフトや賢人たちの言いなりや思惑を知ったところで、なんだっての」
「私はナンバーを傷つける、お前が許せない」
「――……、来なさいよ、受け容れてあげる。
あなたは私、『私から魅那への愛』のカタチだから。そうしたら、まずは一緒に唄いましょう?
うちらの平和と自由ってヤツを、せいぜい高らかに」
「ふざけてるの?」
「おふざけ上等、私ってかわいいから、きっと許してもらえるよ。
魅那にはちゃんとごめんなさいをして、それから今度は、アイドルとして一番の私に振り向かせるんだ。
あぁ、おかげで新しい夢が、ひとつ増えちゃった」
話しているうち、いまの己が何を欲していたのか、はっきりした気がする。




