第89話 まだら
データライズ世界へ旧世界が変遷する過程で、人類が嘗て雑に有した大量破壊兵器の類が、地上から漂白《一掃》された。
具体的にはABC兵器の類、人類や生態系に有害な、ひいては星の環境そのものへ不可逆の破壊を齎すそれらが、『原初のクラフトたち』の力で地上から消えた結果として、クラフトたちが齎した文化を、当時の人間たちは――きわめて人間的な文化を生きられる時代の到来、闘争や競争さえもまたそのように在ることを、末代まで誇るのだとした。その理想の郷は、『原初のクラフトたち』から派生、巨大オブジェクトへ変質した黄金碑をもとに構築された奇蹟にして人類の軌跡の郷、ゆえに黄金碑郷と呼ばれるようになった。
最初期に帝国へ放逐された政治犯がひとりを800年前に弑することで、帝国内でオリジナルモノリスを獲得したのが現皇帝である。その寿命はオリジナルモノリスとの感応によって、保たれていた。
「因果なものだ」「なにが?」
パラソリテールと対峙した皇帝はほくそ笑む。
「ゴールデン・メンヒルと貴様らが呼ぶ、碑郷の礎は帝国のモノリスと対だ」
「!?」
「データライズ世界のモノリスと呼ばれるものは、プレイングカードに照応しているのだ、オリジナルモノリスを欠かした、デジタライズなにがしと云うんだっけか、今のお前は『原初のクラフト』たちの裏側に在る」
「――」
デジタライズクラフトのゲーム、もとは一人遊びに考えられたデジタルゲームであったが、いずれにもジョーカーが必要ない。
「ピラミッド、ユーコン、トライピークスらはどうした?
ほかは結構なのが、揃ってるようだが――まぁ作られないに越したことはないのか」
「あのゲームて、そんなに種類あったの?
確かにトライピークスあたりは想いだしとくべきだったか」
ピラミッドやトライピークスはまぁ、メジャーどころだろうしさっさと思い起こすべきだったやもしれないが――皇帝の口にするすべてが、既に完成しているとすれば、それだけの人柱が扱われていることとなる。
ちなみにユーコンはロシアンやらアラスカやらと似たような派生のあることを、ぼっちゲームの愛好家な王成あたりは、暇があったら熱弁してくれていたやもしれない。もっとも魅那相手では口が重かろうが。
「切札を欠かしたゆえの、紛い物……それがデジタライズクラフトの正体ッ」
「クラフトたちはどこまでも、貴様を孤高だと認めている。
パビリオンらとは隔絶した個として」
「最初にカテドラルモノリスは、なぜ帝国へ流れちまったんだろうな。碑郷から出さなければ、あんたに力を授けることもなかったろうに」
「ジョーカー同士は互いが均衡、星の両端として在る。
その守り人は碑郷での政争に敗れながらも、なんだかんだと任務に忠実だったのだよ、最期まで――損な奴だった」
「あんたがそいつを、殺ったんだな」
「おうともさ。だが私からすれば、そのような力にさしたる意味はない……これを狙って定期的に逆賊も湧けば、一度はわたしも奪われたことのあった。
まぁいまはおかげで、退屈なパビリオンどもの相手をせずに済むわけだ」
「退屈?」
「力こそはあるが、心根はみな生娘らでしかない。
ウィズダムのホルダーがどれだけさかしく振る舞おうと、だ。
そいで貴様――その年に似合わぬ歪み方はなんだよ?
あるんだろう、そうならざるを得なかった、のっぴきならないだけの」
パラソリテールはデジタライズトランプを投擲するも、皇帝の大剣がそれを弾く。
「あいにく――そも俺自身、それに飢えてるんだ。
あんたが理由をくれるなら、どこまでだって食いついてやる」
「お?」
パラソリテールが変質し、ナンバープレイスのクラフトが彼の胸の上に輝いた。
「あんたとの戦いを、俺も楽しむことにしたのさ」
「その、姿は」
「紛い物――そう、みな独りぼっちのクラフトたち。
並列起動なんて危ない橋をわたっておいて、どうしてこれまでこの身が無事なのか――答えは、俺が“ナンバー”だから。
あんたはそれを、俺に示してくれた。
あの広場で、だから!」
四つのデジタライズクラフトを喰らい、ナンバープレイスクラフトが彼の胸の一点へ収束する。
「ナンバープレイスは、己の空欄を埋めていく。
クラフトは俺を信じてくれた、紛い物たちに神秘力をまわしてまで、俺が俺であることを、認め続けてくれた。
クラフトたちが俺の空白を埋めてくれたから、俺はあんたの前に立っている!」
「ならばその姿、なんと名乗る?」
「『ナンバープレイス クインセル』」
五つのクラフトが、四つの空欄を埋め、残る五つをホルダーである魅那自身が埋めていこう――孤高の決意が、新たに生まれし《《まだら模様》》のドレスへ収束する。




