第79話 彼の部屋
「ここが魅那くんの部屋――鍵、開いてる?
不用心だな……ごめんください」
恵瑠野は中で何が起きているかを想像だにせず、彼の寝室へ上がろうとするも、
「待って平和まじでそろそろ買い物行かなきゃだから」
「逃げんなコラ犯すぞ」
「落ち着けって!?
だから服破れるから、そんなに忙しくしてたら……あ」
恵瑠野が入ってきたことに気づいて、魅那は愕然とした。
釣られて向いた平和も、気づくと顔が白くなる。
「える――どうしてここに」
「くんずほぐれつって、こういうのを云うんですっけ」
恵瑠乃の笑顔は引き攣っている。
二分後、彼らは正座させられていた。
「……まぁ邪魔しちゃったのは野暮な私だし?
なんなら平和ちゃんが、前からなんか魅那くんと距離近いなぁとか、想うところないじゃなかったですよ」
「「え」」
「今の『え』の意味をおふたりに詰めてやりたいとこだけど、あんまり騒がしくしたら、ご近所さんにも悪いですからね」
「その配慮は正しいけど、ふたりとも、いっそどこか外食でも出ようか――こんな男部屋で、三人膝を詰めるのも気が滅入るだろ?」
部屋の借り主ということで、魅那は気まずい空気を払拭したい。が、ふたりに睨まれる。
(俺おかしいこと言ってないよな?
よな、普通に考えて?)
もしふたりが彼へまったくその気のない異性だったなら、おそらく彼の対応は間違っていないのだったろうが――魅那は自身へ向けられる好意というものに、やや疎い。
せっかくカスパールに女の扱いを教わっても、そもそもの自己肯定感の足らないところが、平和たちを苛立たせてしまう。
「カスパールのおばさんと智絵ならよくて、うちらでダメな理由ってある?」
「落ち着けよ平和、さっきからいつものクールぶってるお前はどうしちまったんだよ、俺たち、そもそういうんじゃなかったじゃないか」
「ちょっと、『ぶってる』はひどくない?」
「――、魅那くん、一発殴っていい?」
「美継さんまで!?
よそうぜ暴力反対――」
「とかいいつつ、たとえば相手が王成だったら迷わず手を挙げてるんじゃないかな、魅那くんて」
最近の恵瑠乃、なんだか俺に対して当たりが強い気がする。
「俺のことなんだと想ってる!?
変身したらまぁ半分くらいその通りなんだけどッ!」
「「いやそこは頑張って全否定しろよ」」
「ぐっ……関わらなければ、顔を合わさなければッ!!!」
向こうから受ける日頃の半ば理不尽な仕打ちに、彼とて平然としていられたわけではなかった。
「いやあれは大抵王成が悪いけどね。
魅那、男なら黙って耐えるんだよ」
「そこで一方的なジェンダー忍耐論を押し付けられると、マジで肩身が狭いから。……同情するなら、あいつの名前をもう出さないで?
存在から忘れたい虚無だから」
「おーよしよし、魅那きゅんてばかわいそうだねぇ」
平和は彼の頭をよしよし、ぼさぼさにこね回す。
「平和、べたべたしないで」「ひっ――さーせん!?」
恵瑠乃の声が固い。
これは久々のマジギレだと、平和とて委縮せざるをえなかった。
ところで魅那が、当然の疑問を口にする。
「さいで――美継さんは、どうして急にうちへ?
いやどうせ、場所は兎宮さんに教わってたんだろうけど」




