第75話 碑郷への帰投
碑郷へ戻ったナンバーは、拘束したチャトランとキャンセルラーを、賢人たちの前に引き立てた。
「これは……どういうことかしら、ナンバーくん。
その姿といい」
カスパールは戸惑いながら、報告を求める。
「由良のデジタライズクラフトを回収し権限を委譲された際、取り込まれてしまいましてね」
「大丈夫なの、それ?」
「色々あったということか、僕からも聞かせてもらいたいところだな」
バルタザール卿も、ナンバーの変化を興味深く見ていた。
「御覧の通り、帝国内で会敵し、迎撃した際に戦闘不能になったキャンセルラーを拘束、チャトランを保護しました」
「致命傷を負った人物を含め、ふたりもをよく個人で移送できたものだね。
クロンダイクくんも死んじゃったわけだけど」
「処置はチャトランに手伝ってもらいました。
彼女の尋問は、俺がやらせていただきます」
「なぜ?」
「クラフトホルダーに対する碑郷の法は、超常を扱う故に彼女らの越権を赦している――とはいえ、碑郷への敵対やモノリスによる人民の拉致は看過できる問題ではない」
カスパールとバルタザールは、無言で議席から頷く。
「帝国に関する情報を抜き取るならば、裏切り者の彼女らより、皇帝直属の幹部であったキャンセルラーから引き出すのがいい」
「彼女は虫の息だが、ほんとうに使えるのかね?」
「向こうはとかく、尋問以外にもチャトランガクラフトの所有者には使い道があるでしょう」
「なに?」
「モノリスで拉致された人々を、取り戻す目途があります」
「「!」」
「そしてパビリオンは、我々のところへ帰ってくる」
カスパールが身を乗り出した。
「……詳しく」
「賢人さま方を除き、人払いをお願いしたいのですが」
*
ローゼンテラスへ五人が潜伏している現状を、魅那はあえてアーミーに黙っている。
「アーミーの情報収集能力を甘く見てはいけない、きみらの身元に行き着いていないのは単なる幸運だ。
三賢人相手にクラフトを使おうとしたろう、畏れ多いやつめ」
魅那は王成に呆れていた。
だが彼女は首を横に振る。
「前に一度やろうとしたけれどね、アナグラムにやらせようとして、カスパールさんには効かなかった。クラフトに対抗する技術を持っているのは確かだろうな」
「――」
「なに、あんなおばさんに骨抜きにされてるやつが、何か言えるわけ」
「お前ってつくづく、俺を苛立たせる天才かな?」
「もう、よしなよ二人とも」
恵瑠乃が喧嘩勃発寸前のふたりを宥める。
「別に奴らを舐めてるわけじゃないよ、私は怪我の回復ができていないし――……つーかメビウスのやつ、智絵のときには出てきけど、私の前には出てこないんだな」
王成はキャンセルラーの自爆で、変身解除が起きても逃げ場がなく、衝撃をそのまま喰らったわけである。今でも右手足が痺れてすっかり動かない。
「ふたつの擬似クラフトはあんたに渡したわけだけど、それから何か分かったことある?」
「夢の定員が『4人』だったのは、フリーセルの特性で、ゴルフが持つ元々の性能を拡大したんだろう。
きみらが夢から覚めたのは、セィルロイドが俺に詰められて、いよいよ余裕がなくなっていたから――夢の内側からは結局どうしようもない――あいつが自分のやるべきことに専念していたら、少なくとも後退する時間は作れたろうに。
それ以上のことは、実際に使ってみないとわからない」
平和が口を挟む。
「夢の中で、私はそれが夢だと認識していたのは?」
「大した理由ではないと想うぞ――夢の反証なんて、よほど柔軟な発想だというか……想像力がないと、夢のなかを『観察しよう』とはならないだろう、肝が据わっている」
「よくわかんないんだけど?」
「糸鋸が人間として豊かだって話だろう。
安心しろ、褒めてるんだ」
彼女は胸を寄せて苦笑した。
「どこ見て、言ってる?」
「そういう話じゃないからな?
さも俺が見てたかのようにミスリードを張るな」
「うわぁ、魅那くんさいてー」
「お前はそれ言いたいだけだろ」
わざとらしくユキノは言うも、その顔は笑っている。
魅那は説得を諦めた。
いやまじで、そういうんじゃないんだが。




