第73話 やるせない
最期は痛みを感じさせぬよう、脊髄からかけての神経節をデジタライズトランプでずたずたにしたが、そのぶん遺体の絵面は酷いものだ。
「……ごめんなさい、ふたりとも」
ルービックは謝るが、セィルロイドとナンバーは、互いの決着そのものに納得している。
「ルービック、よしなよ。二人は納得して終わったの」
「――、ずっと考えてた。ビットマテリアール獣と戦えば、帝国の人たちもそう、私たちが戦ってる相手は人間だったのに、私は戦士じゃなくて……自分が兵器やあるいはそういうものなんだって、自覚が足りなくて。
もう一度、クラフトの意味、私たちの力がなんなのかを考えてみようと想う。
そしたらいまの賢人たちの碑郷に言いなりにならない、それでいて帝国とも違う結論が、王成と私たちなら、見つけられるんじゃないかって」
変身を解いた魅那が言う。
「君たちはモノリスで、碑郷の人々を攫った。
彼らを元の場所へ戻さなきゃならない」
「「――」」
「碑郷と帝国の環境には差がある。
満たされた碑郷に対して、陽の光もろくに届かないここは……貧しくて過酷で、それでも逞しく生きている人々はいるよ、セィルロイドたちすらそうだったんだろう。
彼らから見たら碑郷は傲慢の象徴だ、文化を持つことすらろくに許されない、こんな環境にいさせられて、品性を保てるように人間はできちゃいない。
これまでの王成とそれに追従するのなら、帝国の社会を利用して、碑郷の価値と治安を貶める――だがそれは今を生きる全員を『底辺へ引き下げる』だけ、誰かの嫉妬が無辜の誰かを殺す……ひでぇ話だけど、それでいいってやつは案外多いんだ。
だけど俺はさ、どれだけ他人からは醜悪に見えてても、碑郷が好きだよ――美しくあれと、そう創られた郷が、あの場所の景色が好きだ。
帝国の連中に明け渡すことも、モノリスや力による支配で踏み躙られるのも、それはいやだから認められない。綺麗ごとだ、我儘を言っているだけかもしれない」
「じゃああんたは、どうしろって言うの」
ジグソーが問うた。
「誰かの不幸がべつの誰かの娯楽に繋がるのは、なにも悪意ばかりがそうさせるわけじゃないよ――貧富が、才能が、知性が、品性が……誰だってまったくの等価じゃないだろ。
やるせないんだよ、それほどに、世界は。
でも俺たちに力があるのなら、やるせないことをそれ以上言い訳にしない」
これまで王成が唱えてきた、革命を認めないというのなら、それを批難するだけでない代案を打ち立てるべきではある。だとして、それは帝国の力や支配による専制ほどすっきりしたものではないんだろう。
「旧来の分断を緩和し、帝国の人々の生活を可能な限り、技術で満たす。
国交を作り、碑郷にある技術や文化の一部を段階的に輸出するとか――歴史を辿れば、彼らは碑郷の罪人扱いだし、その恨みを忘れちゃいないだろう。
ただし彼らの生活は今なお切羽詰まっている、救済と同時にデリケートな対策も要るんだろう、誠意に対して誠意で返ってくるわけじゃなくても、己から出す誠意でしか、相手の誠意を買うことはできないんだから」
「なら……私たちはどうすればいいと想う?
いまだって、多くの人を傷つけている」
「それを考えていくのが、きみたち自身の償いだろ。
俺が何か言ったところで、それは無責任な誰かの絵空事でしかない。
でもまぁ――王成がいるなら、なんとかしてくれるんじゃないか」




