第70話 由良戒斗
平和にはすっかり忘れられた由良であるが、彼の夢はパビリオンたちとは独立していた。記憶に接点と呼べるものがないからだ。
(これはクラフトの感応か――だがクロンダイクは失われた。
プロトタイプのナンバープレイスや正規のクラフトとは異なる、選ばれた我々《アーミー》だけの力!
パビリオンなどと売名ばかりすぐるアイドルもどき、無責任でいい加減な子どもらではなく、我々こそが碑郷を正しく護る本当の力だ!
もう一度私は、あの光を手に――)
「なんだ、これは――やめろ、俺はッまだ!!?」
マテリアール獣が現れたことで五百年近く保たれた、碑郷の平穏は破られた。
曾祖父の代からアーミーとして碑郷を防衛する任を負っていたが、組織の規模と予算は縮小され続け、マテリアール獣が現れた頃には、碑郷を護るべき牙は喪われてしまった。
再編された組織、ここで役割を勝ち取った私は、それを天啓だと想う。
必要とされるべきとき、家門から私が選ばれた。
ならば死力を尽くして然るのだ。たとえクラフトが幾多の犠牲を払って作られようが、
(代償のない力など、ありえないだろう。本当にそんなに全能が許されるなら――)
マテリアール獣に踏み荒らされた街、モノリスに吸われた人々……それは私たちアーミーを、人々が真に必要とするべきときが来たのにほかならない。
パビリオンなどという、中途半端な戦士たちは要らない。
本物は俺たち、アーミーなのだ。
*
目覚めると酷い動悸に見舞われ、だがそれはすぐ引いて、視界が開けた。
「ナンバーっ……気絶しているのか?」
壁を破って、セィルロイドが暗がりの屋内へと侵入する。
パラソリテールの姿で吹き飛ばされた彼は、私の身体にぶつかった。
(さっきの睡眠は、あきらかに普通のものではなかった。
パビリオンたちは何処へ行った、帝国の幹部クラス、追いつかれたか!)
「はん、こんなところに隠れていたとはな!
ナンバーにとどめを刺す前に、お仲間の雑魚から潰してやろうか」
「これだからもやしっ子は、舐められるんだ!
――私とて、クラフトさえあれば……、ぁ」
気絶してうつ伏せる、パラソリテールの懐から、ナンバープレイスクラフトが転がっている。
(ナンバープレイス……人間を素材にしながら、依然として神秘力を宿すクラフト。
生命力を代償とする他のクラフトとは異なる。なぜだ)
「なぜ」「?」
彼は苦い顔で、ナンバークラフトを拾い上げる。
「神秘力だかなんだか知らないが、俺は勝つために存在の総てをかけている!
碑郷を護る、いい加減な子どもたちよりよほど確たる力を!
ナンバープレイス、お前の主人は倒れたぞ、ならば俺に応えろッ!
俺が貴様を使ってやる――」
だがクラフトの出した答えは残酷だった。
由良がクラフトを持つ腕は、直後黒炎に包まれる。
「なぜだ、なぜ俺を選ばない、ナンバープレイスっ!!?
う、うぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!」
叫び声を聞きつけたパラソリテールが目を覚ますも、とき既に遅く、由良の身体は跡形もなく塵と化し、消滅した。




