第65話 追想5 六分儀ユキノ×盤上王成
「六分儀はどうしたい?」
「――、ビットマテリアール獣は日に日に強くなって、ポリゴォンたちも戦い慣れてる。
とっくにわたし一人でどうにかなる段階じゃないのかもしれない、だけど……もう平和に、傷ついて欲しくない。
そのために、あの子らが必要なら」
「……そう」
紆余曲折ありつも残る三人と合流は果たされ、『少女絢爛 オカルティック・パビリオン』が爆誕することとなったのは、言うまでもない。
*
最後の課題だったユキノが合流すると、最初は一体あたりに苦戦していたビットマテリアール獣も、戦いなれてアンビバレントステッキの出力も調整しやすくなり、効率的に倒すことのできるようになった。
――問題は、カテドラルモノリス含めて、その出現頻度が徐々に上がっていったことだ。
転機は後続の二幹部、セィルロイドとポリゴォンの投入。
セィルロイドは厄介なことに、威力はとかく、母数に実質的な限りが見えない火の粉を、近接格闘戦で利用してくる。おまけに単体としての機動力も備えているので、パビリオンたちは常に劣勢を強いられた――あれに対応できたのは、細かな概念語を利用するアナグラムと、空間的な封じ込めが可能なルービックだ。
「帝国の戦術は奇特かつ未知数のモノも多いけれど、本当なら戦略で対処できるべきなのよ。それができなくて、アーミーは困っているわけだけど……」
彼女の寝室には、曲面のワイドモニターが複数並んで、街中の防犯カメラ類からハッキングして抜き取った、ビットマテリアール獣らとの交戦データが再生されている。
「私たちは違う。クラフトは私たちを選んだ、私たちにのみできることがある――でしょう、恵瑠乃……あなたと私が――腐った世界を導くの」
ある意味で、ユキノの懸念は間違っていなかった。はなから王成は、恵瑠乃以外の人間に関心がないからだ。
「でもおかしいな――この様子だと、私たちがいない時間に現れたマテリアール獣が、突如消えたことになる。反応が見失われることは、結構あるようだけど、にしてはあのサイズがほぼ瞬時に――カメラに映ってるこれ、アナグラムの概念文字、に似ている?
たぶん恵瑠乃が言ってたヤツだ、駆けつけてみたら、『ナンバー』と呼ばれた白服の少年がアーミーに連行されたらしいけど……チャトランから出てきた妖精体は、データライズ三次元に現存するクラフトは五つと断言した。私たちのそれと、世界から紛失したメビウスクラフトを除けば、私たちの知らないなにか、クラフトの模造品?
そんなもの、いったい誰が……三賢人、碑郷の権利者の誰かには間違いないでしょうけど。碑郷内の企業規模程度では、クラフトに関する失伝した情報まで集めるのはいくら大きくても無理だ」
……なおこの際、チャトランガクラフトは色々やった王成から強制的に妖精体へ変えられ(体罰的な意味で)尋問を受けた模様。元々幼かった精神性がさらに退行し、王成に半ば盲目的に忠誠を誓っていました。ただし彼女に『逆らえない』と同時に装着者への情がもっとも強いクラフトです。
DVされても『あのひとは悪くないのッ!』って言っちゃう幸薄体質クラフトきゅんです……( ´;ω;` )




