第52話 廃村
行き着いたのは無人の集落、廃村と思しき土地だった。
「不味いな……」
「いきなりなんなの?」
ナンバーが不穏なことを言いだすので、ジグソーがびびる。
「最近使われてない廃村ってことは、ここまでの道で、俺たちの足跡が一番新しい。消してる間もなかったんだ。
村を立つときは、カレイドローンで足跡は分散するとしても――その前に追跡班を編成されたら、疲弊したまま会敵しなきゃならない。
ろくな食糧もこの辺はなさそうだし」
「碑郷との境まで、なんだかんだまだ遠いのも事実よね。
まぁ向こうが追ってきたらその時よ、水でも探しましょう」
案外、チャトラン――王成がこんなときは逞しいらしい。
一行らは、廃村の棟々を利用することにした。
「野営とそう変わらんな」
「流石に手馴れていますね」
どっから出したのか、金属製のコップやらナイフやらをカチャカチャと、その場に手際よく拡げていく由良である。
「サバイバル経験あるひとは違いますか。
すると飲料用に真水を濾過して煮沸、ってとこです?」
「そう思うなら、まずは手を動かしたらどうかね、渓流を探すなり」
「へぃへぃ……軍人てのは上下にうるさいわり、あんたちっとも俺の話のらないよな」
向こうは彼を一瞥するも、そのまま自分の作業へ戻る。
「裏切り者五人の水など、私は面倒見ませんよ」
「勝手にどうぞ。
知識があったって、そもそものリソースが限られてるんじゃね」
アーミーの彼のサバイバル知識にあやかれるなら、それに越したことはないが、最悪の場合水だけ飲んで変身体で俺たちは移動することになる。
「逃げて何処へ行くのですか、碑郷に彼女らは入れられないのですぞ」
「あんたはせいぜい、碑郷への報告へ戻ればいい。そもそもの俺は、命令系統のあって動いているわけじゃない――賢人たちが、ある日押し寄せて、俺へ公務ってガワを押し着せただけ、たかが体裁のために。
あんたほどの責任感もない……ただそうだな、あんたの退路は確保してやる」
「?」
「俺があんたにしてやるのは、そこまでだ」
この人の理解を得ることを、ナンバーははなから望んでいない。
だから軽率に、洗脳など扱える。
小さな渓流を見つけると、既に恵瑠乃がかがんで水を手で汲んでいた。
だがそのまま、水に口を付けようとしたので慌てて止める。
「よせ!」「――」
「濾過も煮沸もしてない水に口をつけるとか、これからはちゃんと注意してくれ」
「これからなんてあるの、魅那くん、わたしに」
「……、たく」
嘆息とともに、ナンバーは変身を解く。
由良につけられていないことも、確認したうえでだ。




