第40話 クラフトの意思
皇都の広場に、高々とそびえる塔のような灰色のオブジェクト。
「あった、カテドラルモノリス!
これが本体……破壊するの、いつもみたく?」
「本物のモノリスであるなら手荒に扱ったところで、破壊なんてできないはずキュキュ。
恵瑠乃、最近は脳筋過ぎないかキュキュ?」
「でも、ほかにある?」
「クラフトの力でモノリスの制御へ干渉するキュキュ!」
「そしたらどうなるの? 」
「ビットマテリアール獣を一掃できるキュキュ!」
「でもそれって、敵味方関係ないんじゃ?」
「碑郷に来られて蹂躙されるのと、どっちがマシキュキュか」
「それは――」
そこへ、野太い男の声が降ってきた。
「させると想うか?
そんなものに拐かされおって」
「なにを……皇帝、陛下?」
モノリス塔の上に、帝国の皇帝が座っている。
「小娘、貴様は礼節は弁えているが、無知もいいところだな。
クラフトはひとの都合ではなく、碑郷、ないしデータライズ世界の都合で話す。
そいつらに人の心はない」
「ルービックは、ずっと私と一緒に戦ってきた!」
「ならなぜその姿を、これまでお前の前に明かさなかったか」
「――、なんだと言うんです」
「そのケダモノは、我が民を一掃すると言った。
モノリスを用い、敵味方の区別もなく、如何にクラフトとて、扱えるモノリスの機能は限られよう――皆殺しにしようというのではないのか、その娘の前で答えてみせろ愚物が」
「クラフトくん……、皇帝の言っていることは本当なの」
「恵瑠乃」
「答えてよ、お願いだから」
「それって大した問題キュキュか?」
「――」
恵瑠乃はたじろぎ、ルービッククラフトを手放した。
「恵瑠乃?どうしてキュキュか、それで碑郷のみんな助かるんキュキュよ、余剰数を持つ連中なんか助かったところで無駄――」
「やめてっ!」
恵瑠乃は耳を塞いだ。
彼女の求めたのは万人を、弱者を、目の前の誰かを助ける力なのに――私を選んだクラフトは、そんなことを微塵も理解せず、私に力を振るわせてきたのだと、理解せざるをえない。
「クラフト使いがクラフトの意図も見抜けないとは、つくづく嘆かわしいことだな」
「私は――ただ、みんなを……苦しんでたひとを、助けたかっただけなのに……どうして、助けたかったんだっけ……」
「願いは美しいが、それを実現する手段を貴様らは間違えたらしい。
さて小娘、どうする?
なおもそのクラフトを使うというなら、我が民を屠ろうなら、私はおのが総てを懸けても貴様を倒すだけだが」
恵瑠乃は、この人とだけは戦えない――今の自分が戦ってはならない相手だと、確信する。ゆえに、一歩も動けなくなってしまった。




