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第39話 背中合わせ

 平和は瓦礫の下敷きになり、腰から下が抜け出せない。


「半身潰れてないだけマシだけど――クラフトさえあれば、こんなとき……ちくしょう、私は!」


 それを奪ったナンバーのせいにはできない、本気で喚べば、クラフトだって自分に答えて戻ってきてくれたんじゃないのか――私はただ、ナンバーというあの少年が読めなかっただけで。

 あるときルービックの危機に際し、颯爽と現れた彼……彼さえいれば、ルービックは安心だと想っていたのに、私やアナグラムは、彼女の依り代となって使役したビットマテリアール獣を躊躇なく秒殺した彼に、殺意とそう変わらない苛立ちを覚えたものだ。

 だが――そもそも彼女の依り代へ名乗り出るのを止めなかった私たちみんなの責任から、目を逸らしても仕方ない。


「ナンバーのせいでも、クラフトのせいでもない。

 こうなったのは――私たちが恵瑠乃を、王成を思い詰めさせたから」


 ほかでもないパビリオンを作ったのは『私たち』なんだ。ないなりの知恵でも、みんなで考えて前に進むべきだった。


「智絵が羨ましいな……こんなとき、星が詠めたら、いいや」


 もっとも、星もけしていいことばかり教えてくれるわけじゃない。


「私は私の力で、星を振り向かせる――それが糸鋸平和、でしょうがッ」


 光が落ちる――収束し、彼女の瓦礫があっさり吹き散らかされた。

 粉塵が燃え、光の粒となって彼女の復帰を祝福する。


「パビリオン=ジグソー ナイトメアドレス!」


 *

 ナイトメアドレス、彼女らが帝国側へついてからの標準形態衣装である。

 それまでは白とかピンクを基調としたファンシーラインでやっていたが、ジグソーの趣味だろうってくらいにシャープな黒基調の衣装となっているのだ。


「あぁ、ウィズ。ここにいたのか」

「ナンバー、その姿は――デジタライズクラフトを使っているの、どうして」

「――、碑郷から総てのデジタライズクラフトを葬る」

「それは術者の生命力を削るんでしょう!?」

「だからだよ、俺のように紛い物の力に縋る馬鹿ども、それを求める連中をいずれ皆滅ぼして」

「――、力に溺れてる?」

「どうするよ、俺を止めるか」

「セット『アンビバレントステッキ』」


 ウィズダムはステッキを握ると、彼の間合いへ飛び込み、背後にいたマテリアール獣の尾を潰す。


「……私のせい?

 ナンバーに変身できなくなったのは」

「違う、俺が選んだんだ、この姿は関係ない」


 彼は二束のトランプを手にした――デジタライズクラフトの固有効果である。


「ビットマテリアール獣、全員もとは人間なんだよね」

「そうだな」


 二人は市街地で背中合わせに、周囲を囲うマテリアール獣の群れを見た。


「モノリスの様子もないなら、この人たちはどうやって獣になっているの!?」

「元々余剰数を与えられた存在だ、たぶん碑郷へ来るときは、複製モノリスが獣化させるために余剰数を、依り代へ強引に付与している。

 パビリオンの浄化必殺技、あれは『余剰数を除去』して、マテリアール獣を無力化するものだ。依代や同化も関係なく、だからきみたちは碑郷の護りの要足りえた――賢人たちがいい顔をしなかったのは当然だな」

「罪人という定義も見失われた時代には、モノリスの異形自体、自動で外に放逐されるべきものにされた。

 ……そっか、パビリオンがくる前のアーミーは、あれを追い出してたもんね」

「カテドラルモノリスの本体は、おそらく皇都内にあるはず。

 それが人々を異形化させている――だけど彼ら自身がそうしなくては、生きていけない」

「それって」

「黄金碑郷の外は、まともな人間が生きていける環境じゃない。

 ろくな食文化も根付いていなかったろ」

「異形化することでしか、生きていけない荒野。

 なんとなくわかってはいたけれど」

「賢人や皇帝たちの語る、リソース問題がその実どこまで信じられるかは知らない。

 ひとまず『182』、かな」

「なに?」

「『アサンブル・ダースト』内にいるマテリアール獣の数は、クーデター勢力でおおよそ200、それに対応する皇帝側で400。とはいえそれだけ入り乱れれば、都内のインフラや一部の施設は守りきれない、だが――これなら」

「デジタライズのトランプ?」


 ナンバーは頷く。


「クーデター勢力の大半はここで仕留めよう」

1~13(J)までのナンバリング合算に×2束=182

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