第38話 洗脳
「え、いや、でも」
「パビリオンの仲間たちと、たかが赤の他人なら、天秤にかけるまでもないだろう。
きみたちは世界に選ばれた五人なのだからキュキュ」
「――、クラフトだけを切り離すとか、なにか方法が。
変身してるひとだって、人間なのに!」
「いいや、擬似クラフト使いは諸共存在を葬るのキュキュ。
世界がやつを許すはずがないのだからキュキュ」
「それってどういう……!?」
背後にビットマテリアール獣が建物の壁を砕いて現れる。
「平和はどこ?ほかの二人にも合流できないのに、こんなところで!」
「寧ろいまは戦えなくて良かったじゃないかキュキュ、クーデター勢力との見分けがつかないのに」
「それは――やっぱりクーデターしてるほうも、ビットマテリアール獣を!?
帝国にはカテドラルモノリスがあるんでしょ」
「そうか、それキュキュ!」「え?」
「皇都にあるモノリスを探すキュキュ、そこが必ず決戦場となるキュキュ!」
とかく、まずは走ってみることにした。
*
気絶していた由良を、魅那は揺すって起こす。
「ビットマテリアール獣は人の負の意識と余剰数に作用して、異形を生む。
それは絶大な力を生む――クラフト使いでないと対処できない超常だ」
「――、なにを仰りたい」
「クラフトを《《紛失した》》いまのきみでは、ビットマテリアール獣には対処できない。
碑郷へ戻っていい」
「……っ」
由良は歯を食いしばる。流石にポリゴォンと二人きりにした途端逃がしたとあれば、彼も自分の落ち度は受け入れるようだ。手足の拘束を外したにしても、由良は異議を唱えることだってできたはずだから。彼もまた、クラフトの力を過信した。
「あるいは俺の監視こそが、バルタザール卿から仰せつかった極秘任務かよ」
「!?」
ナンプレクラフトによる洗脳のおかげで、向こうの動きはほぼ筒抜けだ。
黒幕は彼で間違いない。
(問題は動機だ、まぁ単に俺を信用していなかっただけならそれでも構わないけど)
「……ナンバーどの、ところでそのお姿は?」
「知りたいのか?」「いえ」
これまでとは一風変わった、灰色と赤のストライプ胴着だ。
あからさまな変化に戸惑わせてしまったらしい。
こいつの意識には概念数字でプロテクトをかけられる、今時点ではバルタザール卿へ伝えたくても伝えられないはずだ。
「私は――それでも当初与えられた仕事を完遂させます。
クラフトを敵から取り戻さなければ、死んでも死にきれない」
「そう」
そのクラフトは無論、魅那の手のうちにあるのだが、概念数で認識改竄をかけたため、やはり彼はそれさえ理解できないまま、俺の傀儡として働いてくれるようだ。
「ならば帝国の内情を可能な限り収集しよう」
「……はい」
魅那に手を取られ、彼は立ち上がった。




