第36話 破綻
時間は少し遡る。
――ルービックたちはここにいて。私とウィズダムが、みんな守るから。
そう言ったきり、アナグラムたちが変身して、ようやく逃げ込んだ倉庫から出て行ってしまう。
三人が残ると、平和は言った。
「私と王成が、そもそもクラフトをパクられちゃったせいだよね」
「「――」」
ほか二人は黙りこくってしまう。
「恵瑠乃、そんなに思い詰めなくていいよ、二人ならきっと大丈夫だから」
「ごめん、私が不甲斐ないばっかりなのに……本当なら私だって、戦えるはずなんだ」
ルービッククラフトが応えてくれないだけで、私もいつまでも無力を言い訳にはできない。
「どうして急に、使えなくなったんだろう?」
当人が気づけていないのは、単に一部の記憶を喪ったからではあるまい。それが大切な記憶だったから――己の半身のように。
きっとあの百均のみすぼらしいルービックキューブ、智絵の持ってきたあれはその記憶に紐づいた、そのうえナンバーともかかわりのあるだろう、なのに彼女はなんの感慨も見せず、
『こんなみすぼらしい中古のじゃなくてさ、もっときれいなやつ買ってくればいいのに。
あるでしょ、百均にだって』
なんて言い出すのだから、一堂冷や汗が噴き出たものだ。
(あの優しかったルービックが……ビットマテリアール獣の代償とはいえ、ここまで性格が変わるなんて。私もあいつにひどいこと言っちゃったけど)
流石に、ナンバーのことがいたたまれなくなってきた。
ルービックを傷つけるのは、彼の翻意じゃなかったことぐらいわかっている。
ルービック自身そうなりうると承知で、ビットマテリアール獣の依り代を申し出たのだ。
「ごめん、みんな私の責任だ」
王成が蹲っている。人に謝る姿勢ではない。
平和は彼女の胸倉を掴み上げる。
「クラフトを奪われたなら、それを取り返すことも込みで計画を立て直せばいい。策士の名が泣くよ」
「ごめん、無理なの」「なぜ?」
「パビリオンによる碑郷征服は、帝国皇帝とその権威が盤石である前提だった。
この計画はすでに破綻したの、見なさいよ、外。
あれだけの数のビットマテリアール獣がうじゃうじゃして、クラフトなしの私たちができることなんて」
「そんなあなたは、クラフトが戻ったところで言い訳を続けるんじゃないの?」
「それは――できもしないことを、言わないでよ」
「私は変身しようとするまいと、戦士としての自分は変わらない。
ふたりとも、本当にこのままでいいの?
私は絶対に嫌だ――碑郷を裏切ったというなら、そう生涯謗られようと構わない……だから私は、最期まであなたたちの傍でッ。
みんなを連れ出したことの、けじめはつけて」




