第34話 棄てられた
「記憶をなくす前のルービックが、今のあなたを見たら」
「――」
「いいえ、無意味よね。結局あなたは紛い物のクラフト使いなんだから。
本物のヒーローになんてなれっこない……だったらせめて私たちの絆の邪魔はしないでよ!」
ポリゴォンがクラフトの副作用で動きの鈍ったクロンダイクの隙を突き、変身を解除させた。
「ナンバー!」「!」
掛け声とともに、クロンダイクのデジタライズクラフトが彼の手元へ渡る。
変身を解除された由良は、虫の息で石畳の上に、背中をしたたかに打ち付けて気絶したらしい。
ポリゴォンはどこへともなく立ち去って――、
「みんないなくなる。俺の前から去っていく。
ジグソーにも似たようなことを云われたな、数字はどこまで行っても独り、か」
「あなた……」
「で、お前はどうするんだ?
ここで紛い物の俺を討つか、尻尾を巻いて、四人のところへ向かうか。
今の俺は虫の居所がそんなによくないよ」
「ナンバー、ひとつ聞かせて、これ」
「――」
俺と恵瑠乃の想い出の百均キューブ、智絵に預けたわけだが、
「恵瑠乃が棄てようとしたんだけど、これって」
「!」
「あなた、なにか知ってるんじゃなくて?」
「……さぁ、わからないな。
パビリオンたちが待ってるだろ、きみはもう戻れよ。
俺は由良さんを回収しなきゃならない、そういう仕事なんだ」
「そう――あなたはなんの為に戦っているの」
「質問がっ、多い」
言い過ぎたとは彼女も自覚したようで、嘆息交じりに背中を向けて、その場を後にした。ナンバーは、彼女が去ると膝から崩れる。
(棄てた、恵瑠乃が、あれを?)
「はっ――――はぁ…………………………」
胸が詰まる。ナンバークラフトが変身を維持できない。
そりゃそうか、俺の動機はあの人とともにあったのだから。
――わからない。これは星がどうとかじゃなくて、私がそう願っているだけだから。
持っていったときの智絵の言葉が浮かぶ。
「願いなんて、なんになる……棄てたんだ、ルービック、恵瑠乃が――忘れさせたのは、俺か。
どうして……こんな、なんのために、俺は」
握っていた、クロンダイクのクラフトが震える。
術者の命を喰らうというなら、俺の無意識からくる希死念慮、破滅願望に呼応していてもおかしくはない。たしかに今なら、こいつに喰われてやるのも悪くはないのかも。
俺が戦う動機は、ルービックが依り代となったビットマテリアール獣を屠ったとき、彼女の心諸共、俺自らが葬ってしまったのだから。
……それは願ったところで、戻ってくるようなものじゃない。
――あなたはなんの為に戦っているの。
ほんの今しがた言われたばかりの言葉。
「そんなこと、俺が知りたかったよ……」
もうそれを知ろうと意欲も湧かない。どうでもいい。だから過去形。
動く気が起きない。建屋の天井だったが、彼はそこから一歩も動けなくなってしまった。




