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第30話 敵地潜入

 また七人がかり相手の総当たり戦カウンターポジションは正直野暮だろという俺の声が天《編集さま》に届いた――わけじゃないんだろうなと、今の状況を苦々しく想う。

 ナンバーに変身した魅那はというと、帝国の皇都『アセンブル・ダースト』を見下ろしている。

 帝国内でクーデターが起こり、アーミーの一部が斥候として既に潜入しているらしいが、五人組の行方を辿るには擬似クラフト使いの力が要る、という建前で、彼とクロンダイクを送り込んだのは、案の定のバルタザール卿であった。


「皇都でのクーデターって……変身できないパビリオンたちは――いやそうさせたのは俺なんだけど、碑郷の防衛はアーミー任せ、こんな状況でクラフトホルダーに奇襲される想定だってあろうに。

 バルタザール卿はそれでよかったのか?」


 三賢人の遺るふたり、バルタザールとカスパール様はどこまでこの状況を見こせたろう? 賢人である以上、ふたりとも己にまつわることを含めて星の運行と黄金碑郷の先行きを占うだけの力があることは間違いない。

 よくよく考えてみれば、最近のメルキオの迷走は、下手すると死期が近づいた自身の星にまつわったものかもしれないが、そればっかりは本人のみぞが知るところだ。

 すると生きてる方のふたりの仲がいいか悪いかはさておき、ふたりとも腹に一物も二物も抱えているのが当たり前な政治のひとだ。俺はきっとそれを忘れてはならない、カスパールとの逢瀬もまた、そういう酸いも甘いも噛み分けるべきところで……いつからこんな、淡白なやつになったんだろう、俺は?

 あるいは最初からそうだったかもしれないところを、恵瑠乃に出会ってしまった。あの子の背中を追って、焦がれるほどに求めて手にしたのは、紛い物、幾多の血肉を啜った犠牲のクラフトだ。


「――」

「パビリオンの消息が気になるのですか?

 碑郷の裏切り者たちが」


 クロンダイク由良の洗脳は依然解けていない。かといって彼の自我が失われることはないし、そも承認欲求に飢えてトップダウンの組織にいるようなものが、それっぽい口実さえ納得できるかたちで与えられていれば、忠誠や碑郷に対する害にならない限りにおいては、多少なりの無茶を利かすことはできよう……だから困っている。


「由良さん、あなたはもう変身するなと言われたら、どうする」

「それは――理由を伺いたいところですがね、賢人様らが有無を言わさずというなら、私にはそれに従う義務がある」


 軍人とは難儀なものだ。


「俺が軍人でないから、あなたはそのように言うんだろうね」

「お気に障ったか?」


 慇懃無礼なところは洗脳後も相変わらず、ならば――、


「あなたは擬似クラフトがどのような経緯で生まれたか知らなければならない、知るべきだと俺は考えている」

「!」

「デジタライズクラフトの素材は人間だ――子どもの血肉と生命力、何人が犠牲になったかは知らない」

「なっ……碑郷の賢人たち、故メルキオ卿がそのようなことを、したというのかきみは!?」


 流石に贄の存在を聞かされては開いた口が塞がらないか。

 だが――そこからの反応は、ナンバーの予想と違う。

 驚きはしたものの、由良はすぐに落ち着きを取り戻した。


「それぐらい、必要な犠牲でしょう」

「は? あんた自分がなにを言っているのか」

「碑郷のリソースは限られている、万人に分け隔てなく与えられるわけではない、贄にされる程度のものらなど、所詮はその程度、余剰数を与えられなかっただけマシなものではありませんか」

「それがなんの罪もない子どもでも?」

「賢人の叡智が築いた理想郷を守護するためなら、あらゆる犠牲はいずれ帰結する。星の導きのままに――」

「なら由良さん、命令だ。

 もうクロンダイクへ変身するな」

「あなたは命令権はない、生前のメルキオ卿は」

「うるさいなっ、メルキオはもういないんだよ!」


 虫唾が走る言い分を前に、もはやナンバーは苛立ちを隠さなかった。

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