第24話 願い
コンビニ食をいくつか買ってきたら、完全に餌付けのそれである、帝国では碌な食事にありつけなかったらしい。
「一応国賓なんだろう?
帝国ってそんな切羽詰まってるわけ」
「……食糧事情は詳しくないけど、末端に行きわたっていないとかじゃないよ。ただ……主に見た目がアレ、食欲が消し飛ぶ」
「へぇ」
それを聞くと、やや彼女に同情したくもなった。
「向こうの人って余剰数で身体を作り変えられてるからか、与えられるものが極端なんだよね。
スープ代わりに冷めたペーストみたいの出されて、大雑把な見た目に粗野な味付けで栄養食か石器時代の人間が食べてそうな氷漬けの肉塊みたいなものお出しされるわけ、そもエネルギー資源の関係で火を通すって文化が普及しなかったんだって。
うちらはクラフト使って着火したり、最近まで色々手間かけて工夫してたんだけど、もう限界――私が食べたいのは人間の文化だったんだって、今ならはっきりわかるぅ……」
「苦労してるよなぁ、お前も。
いいぞ好きなだけ食べてて――どうせ何人か養ってもつりが来るぐらいには、お金貰ってるし」
「碑郷って宮仕えの福利厚生ちゃんとやってるんだね。
養って?」
「お前らが全員こっちへ戻ってきてくれるなら、まぁ考えなくもないけど」
「あ、それは無理だね。特に今は」
「――つらい想いしてまで、そっちにいるに見合ったものはある?」
「少なくとも恵瑠乃はまだそう信じてる。
ビットマテリアール獣の使役も、今までより大きな力が扱えるって、あの子自身が望んで立候補したことだから」
「でも俺は、そんなあの子の懸命な努力を踏みにじってる。
あの子の心を、壊した」
河川敷でパズルの端に、サインペンで数字を書きつけていたあの頃の少女はもういない、だってほかならぬ俺がそれを葬ったから。
やけじみた暴食ののち、ダイエットなどと宣いながら智絵は俺を押し倒した。無論そんなものは口実で、互いを慰めあう口実が欲しかっただけだ。
「気づいてないと想うけど」「?」
「平和は魅那くん――いやナンバーを嫌ってるわけじゃないよ、感覚は擦りあわないかもしれない、でも許してあげてほしい」
「うん……」
「それと――今日はこれを借りに来た」
星が読める彼女には、最初から自分が為すべきことはわかっているのだろう。にしても、
「ただの百均のおもちゃだぞ」
「想い出の、でしょう。
ルービックには必要だって言ったら、頷いてくれる?」
「あの子の記憶は消えた、そいつで刺激する意味なんてあるのか」
恵瑠乃と俺の思い出のルービックキューブ、経年劣化ですっかりくすんで、文字も掠れているが、……そうだな、俺の傍に置いていても、いまは苦しいだけか。
「わからない。これは星がどうとかじゃなくて、私がそう願っているだけだから」
「願い?」
変なことを云うものだ。これまで彼女と関わるときは、彼女なりの必然がなにかしらあるようだった、それになかなか人間味を感じなかったが――
「初めて、お前自身の意志を見た気がする」
「そう?」
「うん。けして悪いことじゃないよ、それの扱いは任せる。
今の俺が持っていても棄てるしかなくなりそうだし」




