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第18話 アセンブル・ダースト

前回のあらすじ:ダウンジング振り子催眠逆レ

「――いや先に言えよッ!!!!!

 こうなるまで店に来なかった俺のせいかもだけど!!!」


 全部チャトランの仕業だろう、女子コミュニティ特有の空気感というのはあるし、そこへ俺がホイホイ割って入るほうが野暮というのはある、実質的な国家転覆を目論んでの出奔ならなおのことだ。

 つーかこういうのってさ、普通やるにしても追加戦士が参入する以前にやらかすタイプのそういうイベントとかじゃなくてか?

 レギュラー戦士側がやるのはいくらなんでも邪道が過ぎるんじゃありませんかねて――俺はなにを何処に向かって叫んでいるんだろう。

 さておき、この状況がけして恵瑠乃の望んだ状況でないのがわかっただけで今回はよしとするべきか。

 *

 帝国皇都『アセンブル・ダースト』にて与えられた彼女らの部屋、扉には護衛という名の見張りがついている。


「どこ行ってたの智絵」「ん、ロゼッタ・テラス」

「そっか……なんて?」


 恵瑠乃は一瞬聞き流しかけた。


「黄金碑郷へ潜入したってこと、どうしてそんな危ない橋を!」

「声でかいよ恵瑠乃」

「ごめん、でも」

「そういやナンバーに会ったよ」

「ナンバーくんに、テラスで?

 それって……」

「書き置きにはついさっき気づいたみたい」

「――」

「それと、これはあとで王成にも報告するけど。

 急に現れた擬似クラフト使いたち、やっぱり賢人が噛んでたよ、メルキオの息がかかった二人だって」

「ナンバーに、自白させたの、その……」

「美味しくいただいてきました」

「ちょっと待って」


 恵瑠乃だって個々人の貞操観念について、あまりとやかく言いたくない。

 よりにも敵対している少年と関係を持ったというのか?

 どうやってなんて聞くまでもない、ダウジング振り子の催眠効果なんて彼女とて百も承知だ。


「いや生々しいから!?」「だから声が大きい」「このッ――」


 するとナンバーくんは催眠逆レとはいえ、もう童貞じゃないのかということに妙なショックを受けている。いや智絵なんかも普通にぼんやりして見えるけど、もう非処女だなんてそんな……?

 なんだろう、この妙な敗北感は。


「王成はいつも、ナンバーくんは童貞だって言ってたのに……」

「いやなにに対する偏見だよ、そんなパズルが可哀想なことてあるか?

 そもあの子、カスパールさんとできてるでしょうに」

「は?――は?」


 恵瑠乃は思わず二度聞き返した。


「知らないの、えるのちんだけだよ……」

「カスパールって、三賢人の……待って……理解が追いつかない。

 あのカス……人外みたいな年増なのに……うそ……ナンバーくん……どうして……そんな……?」

「ふむ……」


 普段の彼女からは考えられない暴言がまろび出てきて、智絵にはなかなかそれが興味深い。


「結局ナンバーの中の人が誰か、智絵は知ってるんでしょ?」

「さぁどうでしょう。知ったところで、私たちのこれからやることってなにか変わりますか?」

「……ないね」


 言われてみるとその通りなのだ。智絵なりに私へ気を使ってくれているのはわかってる。

 だけど歯痒いのもまた事実。


「ナンバーなんて、恵瑠乃からすれば他人事じゃないの?

 前、ほかに気になるひといるって言ってたよね」

「それは――魅那くんのことは、それこそ関係ないでしょ!

 私たちが碑郷を手に入れれば、大切なひとたちみんな、私たちは護れるんだよ?」

「結果、その彼らから憎まれたとしても?」

「……王成の方針に不満があるなら、そう言って」

「そうじゃないよ、恵瑠乃。

 私が聞きたいのは、王成に負担をかけてるのは、それこそ私たちなんじゃないかってこと」

「――」

「あの子は未来を一人で抱えてるつもりだ、このままだと壊れるよ」

「そんなことには、絶対させない。けど……帝国の人たちだって、私たちは放っておけない。

 彼らだって黄金碑郷の被害者なんだよ?」


 *

 マテリアール帝国はごろつき、ならず者たちが起こした国家だということを、きっと恵瑠乃はまだあまり理解していないのではないか。魅那にはそんな気がしてならない。

(黄金碑郷の建設の影で、『余剰数』として異形にされ、最初に追放されたのは、碑郷での政治犯たちだった。

 無論碑郷の勢力圏を維持するため、物理的なリソースを与えられないということで荒野へ下った宿なし物乞いみたいな貧民層もいたそうだし、それが帝国人民たちの大半であることはその通りだが――支配者が変わったら全て上手く行くなんてことはないんだ。

 ……本気だってのなら、一度王成と話すべきだろうけど)


「俺はあいつが嫌いだ」


 先に俺を嫌っていたのはあいつなのだが、生理的に無理というか、到底馬が合うことはないと、その後も顔を突き合わすたびに呪いじみた確信と化していった。

 ホットライン――碑郷が俺の監視を兼ねて持たせている、一応の管理端末。

 家に放置したりと結構杜撰な扱いもするのだが、公務中はなるべく持つよう心掛けている。

 着信が入り、受話器を開く。


「もしもし――なんですって」


 魅那は愕然とする。


「メルキオ=ゴルドが亡くなった?」

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