第15話 キョウカショワスレマシタ
「じゃあ教科書の次のところ、美継さん、読んでみてくれる?」
『ハイ、センセイ。キョウカショワスレマシタ!』
「……最近の子って、置き勉くらい普通だと想ってたんだが」
「――」
置き勉についてはおっしゃるその通りですよ先生、と、同情が口に出かかった。普通に毎日持って歩くには教科書重いもん、そりゃロッカー使うだろと。
彼女たちが教室に置いたオートマタ・ドールたちには、クラフトによる認識阻害がかかっており、一般人にはあれで本物と見分けがつかない。あんな木偶人形《ロボ顔》だっつうのに、人間というのがいかにものを見ているようで見ていないかの典型らしい。
もっとも、魅那がそれをわかるのは自身のクラフトが認識阻害を無効化しているからだ。
(製作者はウィズダムとチャトランだな、それでいてクラフトからの干渉波が追跡できないようになってて、とりわけふたりのオートマタはしっかり自律している)
「ほんと大したもんだよ、ダウジング女とあの性悪――俺も授業さぼろっかな」
技術的には可能かもしれない、しかし――。
――約束だよ、魅那くん。これからは私に会いに学校へ来て。きっと毎日が楽しくなるから!
「ッ――」「天都戸、どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません」
(美継、お前がいない教室なんて)
「……意味ないのに」
*
目覚めると目の前に、ダウジングの振り子が揺れている。
魅那は遅れて反応した。
「!?」
たじろぐも、それ以上動けない。
(ラビリンス智絵、どうして――)
「ん」
「じゃねぇ、なんで人の膝の上にいるんだよ、兎宮!」
「それこそ人の店へ勝手に忍び込んだ、天都戸くんに言われても」
「いやCLOSEってわり、鍵空いてたし」「不法侵入」
そういえば『ロゼッタ・テラス』の土地は兎宮家の所有だったか。
それが芸名だかは知らないが、学内や公の場では迷宮なんて名乗っている。
(そういえばこいつのラビリンスってどっから来てるんだ?
兎宮の兎のラビなら綴りはRだろう、Lじゃなくて――いや、そもそもこいつ、黄金碑郷内に潜伏していたのか)
「そういうお前は、ここにいて大丈夫なのか?」
「ん、オーナーだから」
「そうなんだ、そうなんだとして……いや、なんでもない。
変なこと言うとこだった」
五人組の前で、変身前の自分が姿を晒したことはない。
「言ってみ」
「――」
促され、慎重に言葉を選ぶ。
「その……最近、教室でのお前ら、なんだか変だよな。
いつも美継がリードして騒いでて、なのに最近はやけにおとなしいというか」
「無理に隠さなくていいよ、ナンバー。
きみがアルタークラフトのホルダーだって、とっくにわかってる」
「――、君たち全員か」
「さぁ、私はこれで大抵は分かるから」
ダウジング用の菱形振り子を指先でくるりと回す。
「勘がいいチャトラン、王成あたりはうすうす気づいてるだろうけど。恵瑠乃たちは全然気づいてないよ、すごいねきみ」
「てっきりみんなばらしているかと想った」
「星がその時じゃないって出たからね――王成には前に訊かれたけど、はぐらかしたよ。それ以上、追及されなかった」
「やっぱり星、ですか」
「カスパールさんと、何回えっちしたの?」
いくらなんでも直接的すぎる、こいつに羞恥心はないだろうか。
「賢人の名を易々出して語ることかよ」
「この辺りには、いま私とあなた以外の気配はない」
「興味あるの?」
「試しに聞いただけ。本当に回数答えたら引いてた」
「なんなんだよお前。数えてねぇよ、……途中から」
カスパールとそういう関係になったのは、アルタークラフトと契約して日も浅いうちで、黄金碑郷のさまざまなお偉方に睨まれた環境ではそういう背景を恵瑠乃らに明かせるはずもなく、つまり俺の貞操はとうに閉経(※向こうの自称である)した年増にすっかり持ってかれてしまってるわけだが……。
「なぁ、カスパールさんは」
「きみを利用しているか?
それは解釈次第だね、誰だって人を自分に都合よく扱うものだし、たまたまそれが自分に不快だったり、利害が一致しなかったとき、騙されたって顔を人はする。カスパールさんは、あなたにそんなことをするひとかな?」
「それは……正直、わからない。
あの人は、政治ができてしまうひとだから」
「向き合い続けるだけでいい。あなたの信念を、私は否定しない」
「だったら!
どうしてきみたちは、帝国側へ行った」
「きみには大方の答え、わかってるんじゃない?」
「――」
やりきれなくて、魅那は顔を伏せた。




