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第九十八話 今も残る傷跡

【登場人物】

ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉

マリリア ジュードの元婚約者、神帝の妃 〈聖者〉

フレミア 元はマリリアの侍女でジュードの付き人

マリリアはオアシス都市の一角にある部屋にいた。ジュードはマリリアに止めを刺そうとしたが、ガイの必死の助命嘆願により生かされ、フレミアに預けられていた。マリリアはもう何日もまともな食事をせず、与えられた部屋に閉じこもっていた。家族をこの手で殺した記憶、帝国の主力を率いて多くの人々を殺害した記憶、化け物に抱かれた(おぞ)ましい記憶のために夜も眠れない。ベッドの上でただ震えているだけだった。そんなマリリアのもとをフレミアが訪れた。マリリアはベッドを出てフレミアの前にフラフラしながら立った。マリリアの顔には涙のあと、髪は乱れ、自分で掻きむしったのか所々で血が(にじ)んでいた。嘔吐したのか、部屋には異臭が漂っている。


「マリリア様、お聞き下さい。」


「フレミアさん...私に敬称は不要です。今は何者でもない。ただの虜囚(りょしゅう)です。」


「ではマリリア、お聞きなさい。とても大切な話です。あなたには役目があります。ジュード様はあなた達に受けた傷が未だに癒えていません。戦われる度に出血します。それをあなたの聖者の力で癒すのです。」


「傷が...あぁぁ、ジュード...ごめんなさい、ごめんなさい。」


ジュードを殺そうとした事の後悔がマリリアの中で再び沸き起こり、手で顔を覆いながらその場に座り込んでしまった。もう流れる涙はなく、かすれた声で嗚咽(おえつ)する。


「いっそあの場でジュードに殺して貰えれば罪を償えたのに...」


「マリリア、死んで楽になるのはあなただけです。それは償いとは言いません。裏切られて心も体も傷ついたジュード様を癒す事があなたの償いではありませんか? それともジュード様の傷を癒す事が嫌なのですか?」


「そっ、そんな事は。ジュードの為ならなんでも...」


「そうですか、それでは今夜から始めましょう。それと、あなたのその胸の傷も直しておいて下さい。」


「この傷を? これは自分への罰として残したいのですが。」


「それもあなたの自己満足でしかありません。そんな事をしても誰も喜ばないでしょう。傷を治し、身を清め、以前の美しい姿に戻してからジュード様の前に出なさい。」


その日の夜、フレミアはマリリアを伴ってジュードの部屋を訪れた。マリリアを見たジュードはなぜこの女を連れて来たのかと怒鳴ったが、必要だと自分が判断して連れて来ました、とフレミアは毅然とした態度で答えた。いつも穏やかなフレミアらしくない態度であったので、仕方なくジュードは許可した。


フレミアはジュードをベットに横たわらせ、慣れた手つきで新装具や服を脱がす。ジュードの体は、魔術に焼かれた左肩は乾ききらずに血が滲み、胸にある3箇所の矢傷も未だ塞がってはいない。あれから相当の月日が経過しているのに何故完治していないのかは分からない。マリリアはそれを見て思わず息を呑んだが、フレミアはそれには構わず、布で優しく血を拭き取り、そしてマリリアに治療を促した。暫くするとマリリアの聖者の力で傷や火傷痕は僅かに良くなったが、完治には長い期間が必要だと思われた。それに失明した左眼は諦めるしかなかった。痛みが引いて楽になったのか、あるいは戦いで使った神装具による疲れの為か、ジュードは寝息を立て始めていた。


「マリリア、ジュード様の体に触れて分かったでしょう。体が冷え切っているのです。」


そう言うとフレミアはマリリアの前で恥ずかしがる事もなく服を脱ぎ、ジュードのベッドに入り彼を温め始めた。フレミアはジュードの血が自分の髪や体に付いても気にせずピタリと体を寄せている。かつてはマリリアもジュードのベッドに潜り込んでいたのに、彼を裏切り傷付けてしまった後ろめたさと後悔で、また穢れてしまった自分をジュードは嫌悪するであろうと思えて、今はジュードに身を寄せる事を躊躇(ちゅうちょ)してしまう。一途にジュードを想って行動できるフレミアが(うらや)ましいとマリリアは思った。


マリリアはフレミアが寝息を立て始めた頃に静かに寝室を出て行った。


ーーーーーーーーーー


治療はそれからも続けられ、徐々にジュードは回復しつつある。一方でマリリアはジュードの治療以外は部屋に閉じ籠り、その様子を心配したフレミアが声を掛けても僅かに応えるだけだった。だが、マリリアは無為に過ごしていた訳ではない。そんな状態を続けても他者にとって何の償いにもならない事をマリリアも頭では理解している。


・・・ジュードを治療する程度で償いになる筈はない。・・・


マリリアは考え続けていた。最後にはこの命を差し出すべきだろうが、その前にできる限り罪を償いたい。その為に自分には何が出来るだろうかと...。数日後、まだ考えが纏まらないままにマリリアはジュードの側に仕える事を願い出た。


「私は多くの人々を不幸にしました。その罪を償わなければなりません。ですが多くの人々に対して償うと言っても容易ではないでしょう。何より今の私に出来る事は限られます。そうであるなら、先ずはジュードのお役に立つ事で間接的にでも人々への償いを始めたいのです。」


マリリアの急な申し出にジュードは眉を顰め、顔を背けた。話を聞くつもりはないという態度だった。しかしマリリアは話を続ける。


「どうかお願いします。治療以外でもジュードの側で奉仕させて下さい。どんな命令にも従います。奴隷として扱われても、兵士として前線に送られても構いません。望まれればどんな事にでも従います。」


ジュードは顔を背けたままだが、尚もマリリアは続ける。


「私は犯した罪に応じた罰を受けなければなりません。間違いなく死罪です。そうでなくては万人は納得しません。ですから償いの為に残された時間は限られています。どうか...どうか...私に機会を与えて下さい。」


死罪という単語が出てジュードはマリリアに向き直り、暫し考えてから応えた。


「お前が操られていた事は知っている。その原因の一端がケララケを信じてしまった俺の甘さである事も。だが、操られたという事を人々に証明する手段はないし、仮に証明出来たとしても人々が受けた傷は消えない。お前が犯した罪は許されず、人々の怨嗟から逃れる事はできない。その事を理解しているなら好きにしろ。お前の事はフレミアに任せているから俺から命じる事はない。」


「ありがとう...ありがとうございます。」


安堵したのか、マリリアはその場に座り込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ずいぶんと魔ァ、気持ちの悪い悶を見せられたなぁと。(•▽•;)(スーパーモブ男女ンズによる、強引愚舞ウェーイな居直り→訳ワカメな後出し設定からの汚物のストリップ暖房←誰毒?。無理矢理緩すって…
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