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第八話 ベントリー領の復興

ジーク 主人公 アルムンド騎士爵の三男

シンシア 主人公の幼馴染でベントリー男爵の次女

ナボレス伯爵 近隣一帯の寄親

シンシアとの婚約をナボレス伯爵へ報告すると、散々に揶揄われたが、伯爵は存分に笑った後、事前にご祝儀を用意しておいたよと幾つかの金品と書面をジークに渡した。書面の1通は男爵位への叙爵の証明書で、シンシアとの婚姻が条件だと但書がある。もう1通はベントリー領主の任命書、最後の1通は騎士団の除隊証明書だった。金品の中には新しい領主印もあった。家名はベントリーとなっていた。


「さっさと行って建て直しなよ。」


聞けばベントリー領は大変な状況で、ナボレスから派遣した文官だけでは対応しきれないそうだ。前領主であるシーガスに従っていた使用人を含め多くの関係者が連行され、その中には領地経営の重職を担っていた執事なども含まれる。先ずは人集めから始めねばならない。シーガスは資産没収されているのでベントリー家には資金もない。借金前提の船出とは幸先が悪い。やや暗い気持ちでジークはベントリー領へと向かった。


ーーーーーーーーーー


「国境線を守る領地なのに守備隊がいないと聞きましたぞ。私が行って守備隊を編成しましょう。なあに、私はもう年寄りですが、騎士団で武術教官をしていた経験があります。アルムヘイグで一番強い守備隊として見せますよ。」


「俺達は盗賊団の残党狩りと狩猟で稼がせてもらいますぜ。もちろん領民からの頼み事にも対応するつもりでさぁ。」


「貧乏な領地だから十分な賃金を払えないぞ。ナボレスの方が安定した生活が出来るんじゃないか?」


「私は騎士団から貰った退職金がありますからな。生活には困りません。それよりは充実した余生を過ごす事が重要です。ベントリーなら楽しく過ごせると確信してます。」


「そうそう。楽しくなくっちゃ。せっかく兄貴の様に親しみやすい貴族様と知り合いになれたんだし、一緒にいればきっと面白い事があると思うんだ。冒険者としての勘だよ。」


「まったく...でも付いて来てくれて嬉しいよ。」


ベントリーへと向かう馬車には盗賊団討伐で共に戦った騎士団の教官と冒険者が乗っていた。教官...元教官になるが、彼は引退間際の年齢なので退団して余生は田舎で暮らすのだと言う。冒険者の方は、沢山稼げそうだから、だそうだ。途中のアルムンドに寄ると、次兄が乗り込んできて、役所を辞めてベントリーの領地経営を助けてやると言った。シンシアと彼女付きのメイドと、何故か母も同行するが、彼女達には別の馬車を用意した。


「ナボレスの役所にいるよりジークの元でベントリーの統治に携わった方が面白そうだ。どうせ領地経営の事なんて分からないだろう。俺に任せれば間違い無いよ。後からナボレスで知り合った信頼できる奴等も来る予定さ。」


「私は男爵家の中の立て直しをしますよ。家の中の事は女の役目。女主人となるシンシアさんに教えたい事がいっぱいあるのよ。それにシンシアさんともっと仲良くなりたいわ。」


「ちい兄さんはまあ良いですが、母さんはアルムンドの事も忘れないで下さいよ。あまり長居すると父さんが拗ねてしまいます。」


「ジャンバルクの事なら大丈夫です。お互いに信頼してますからね。それに必要な事はジェリーに任せています。ジェリーにとっても良い経験でしょう。」


「はぁ、そうですか。」


ベントリー領はアルムンド領と比べて数倍の広さがあり、領民の数も多い。隣領だけあってアルムンドと同じ気候、農作物にも違いはないが、未開発地、あるいは領民が手放して放置された旧耕作地が多く残されている。ベントリー領の中心にある街に入ってからジークは馬車を降り、歩いて男爵邸へ向かった。ジークが盗賊団討伐を成した指揮官だと知られていたからか、穏やかだった前々領主の娘であるシンシアがいたからか、領民達からは好意的に迎えられた。


ーーーーーーーーーー


ベントリー領に着任して数週間後、ジーク以外の者達は慌ただしさの中にいた。母はジークの報奨金や騎士団からの退職金を丸ごと奪い、邸宅の改修、新しい執事やメイドの採用、人気取りのための貧民街での炊き出しを始めた。シンシアもそれを手伝っている。元教官は守備隊の再編成と訓練、次兄は領地再建計画の立案と資金集め、冒険者達は役人では手が届かない領民達の雑多な依頼に対応している。ジークはといえば、新領主就任を祝って集まった商人や近隣からの訪問者に対応していたが、こうした事には慣れておらず、どうにかして逃げ出したかった。時折、奴隷から解放された領民や盗賊団に被害にあった領民を訪ねて必要な支援について話し合ったが、こちらの方がジークには合っていた。


「収穫祭に合わせて婚約式をしましょう。」


領民達が秋の収穫を終えて一息つき始めた頃に母が急に言い出した。ジークは少し前に16歳になっていたが、まだ若年であり、結婚はしていない。シンシアの心の傷がもう少し癒されてから正式な結婚式をあげようと話し合っていた。そのため2人の関係を表すなら婚約になるのだが、それは周囲の限られた者が知るだけだ。


「この領にいま必要なのは将来の希望を感じさせる明るい話題です。」


・・・まったくその通りなのだが・・・


ジークは気恥ずかしさを感じた。シンシアは顔を赤らめて俯いている。しかし母の行動は早く、衣装や当日振る舞う食事や酒の準備に取り掛かってしまった。次兄は賛成だと言い、横で聞いていた元教官はガハハと笑っていた。そうして急遽準備された婚約式だったが、それにしては立派な舞台が収穫祭当日に設置され、周囲は花々で彩られ、多くの料理や酒が振る舞われた。周囲が盛り上がってきたところで着飾ったジークとシンシアが舞台中央に上がると、集まった領民達の盛り上がりは最高潮に達した。神官が2人の前で祝福の言葉を述べていたが、周囲がうるさ過ぎてまったく聞こえなかった。


収穫祭の翌日、片付けが終わり街が静けさを取り戻した頃、ジークとシンシアの2人は男爵邸の裏手の丘に登った。ここにはベントリー家代々の墓が並んでいる。その一角にある比較的新しい墓がシンシアの父親の墓で、2人は花束を添え、婚約した事を報告した。


それから2人は手を取り合い、夕陽に照らされたベントリー領を眺めた。

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