第六十三話 スーベニアへの旅路
【登場人物】
ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉
ジーク かつてジョルジアを治めた英雄王 〈勇者〉
マルグリット ジークの第一王妃、ジョルジアの王太后
シンシア ジークの第二王妃、既に故人 〈聖者〉
イェルシア ジークの第三王妃 〈智者〉
マリリア ジョルジア王の末娘 〈聖者〉
イェリアナ イェルシアの孫娘
シルリラ シンシアの孫娘
ガイ 前軍務卿の外孫でジュードの従者
ミリア スーベニア大聖堂のシスター 〈隠者〉
ジュード達は馬車でスーベニア神聖国へ向かった。同行者はマリリア、イェリアナ、シルリラ、それに護衛と御者を兼ねたガイだった。馬車の中は向かい合わせで片側3人ずつ、最大で6人が座れる。しかし片側に3人座ると少し手狭で、向かい合わせで2人ずつ座るべきなのだが、誰がジュードの隣に座るかで揉めた。
「マリリアは王宮で一緒に暮らしてるんでしょ。今回は譲りなさいよ。」
「私が婚約者なのですから、ジュードの隣には私が座るべきです。」
「あの〜、2人が揉める様なら私がジュードの隣に座りますよ。」
「シルリラは黙ってて。」
結局、休憩毎にジュードの隣を交替する事になったが、女性陣は馬車の中で笑い合ったり言い争ったりで騒がしく、ジュードは御者台に座るガイの隣に逃げる事もあった。
一行はなるべく街にある宿に泊まったが、時折は野営する事もあり、そんな時はガイとマリリアが食事や寝床を準備し、ジュードを含めた3人で交代しながら夜の見張りを担った。マリリアは前年のスーベニアへの旅で野営には慣れた様で、その手際の良さに、ジュードやガイだけでなく、イェリアナやシルリラも驚いた。
「マリリアって何でも出来るのね。」
「何でもは出来ませんが、これぐらいなら誰でも直ぐに慣れますよ。」
「つ、次の機会は私も手伝います。」
「私も手伝いたい。」
早朝の半刻程度はジュードとガイとで習慣となっている武術訓練をするが、時折はマリリアやイェリアナも参加した。2人ともそれなりに剣を使えるが、ジュードやガイには敵わない。マリリアは自分との力量の差を知っていたが、知らなかったイェリアナは悔しがり、何度もジュードに挑んだ。
「ジュードってこんなに強いの? これじゃあ決闘しても勝てないわね。でも私の伴侶になる条件は満たしてるわ。文句なしね。」
「イェリアナ、旅の間はその話をしない約束よ。」
「そ、そうですよ、抜け駆けは禁止です。」
「分かってるわよ、独り言よ、ひ、と、り、ご、と。」
シルリラは武術訓練をしている場所の近くで魔術の訓練をしている。魔術といっても、賢者カインが誰でも使えるレベルに一般化した技術で、それほど強力なものではないが、シルリラの魔術の操作は優れている様に思えた。子供の頃からかなりの修練を積んできたのだろう。マリリアやイェリアナがシルリラに教わっていたが、シルリラの様に魔術を操作するには時間が掛かりそうだった。
旅が10日を過ぎる頃には女性3人の仲はますます深まり、常に3人で何か話している。マリリアとイェリアナは王女、シルリラもアルムヘイグの貴族令嬢であり、共通する話題が多いのだろう。それぞれ違う国の出身で、自国のしがらみを意識しなくて良いという理由もあるかも知れない。
スーベニアへの旅は順調に進み、予定通りスーベニアとの国境に着いた。そこからは国境警備隊の先導でミリアのいる大聖堂へ向かう。イェリアナとシルリラにとっては初めて訪れる国で、馬車から見える風景を楽しみ、時折遠くに見える街や面白そうな場所があればマリリアに質問していた。ジュードは3人が楽しそうに話す姿を見ている。かつてシンシア・マルグリット・イェルシアがジョルジアの王宮で仲良く話していた頃を思い出した。