第六十一話 マリリアとの婚約
【登場人物】
ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉
ジーク かつてジョルジアを治めた英雄王 〈勇者〉
マルグリット ジークの第一王妃、ジョルジアの王太后
マルス 現在のジョルジア王でジークの息子
マリリア ジョルジア王の末娘 〈聖者〉
フレデリカ マリリアの友人、ヨミナス伯爵令嬢
ジュードはマリリアを伴ってマルス王とマルグリットへ婚約を報告した。二人は終始笑顔だったが、喜ぶと言うよりホッとした表情だった。
「ジュード殿、よく決心してくれた。直ぐに結婚の準備を始めようと思うがどうか。」
「お待ち下さい。私もマリリアも未だ学生です。結婚は卒業後に行いたいと思います。」
「そっ、そうか。ジュード殿がそう考えているなら卒業後としよう。マリリアもそれで良いか?」
「はい。全てジュードの考えに従います。」
マリリアが隣に座るジュードに笑顔を向ける。そのマリリアに笑みを返してからジュードは話を続けた。
「それと、マリリアを王族籍へ戻して頂けないでしょうか。婚約した事でマルス王の思惑は達成している筈です。今のままマリリアの立場をあやふやにしておく必要はない筈です。」
マルス王は少し考えたのち、マルグリットへ目を向ける。マルグリットは縦に頷いた。
「ではマリリアを王族籍へ戻す事にする。それと、ジュード殿の立場も変えねばならないだろう。こう言ってはなんだが、騎士爵家の子息という立場だと王族との結婚に反対する貴族も出てくる。どこかの上級貴族の養子になって欲しい。」
「その件はお任せします。」
「では任せよ。その他の対応もこちらで決めさせてもらう。」
「宜しくお願いします。」
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主だった貴族へは早めに公表する事になった。一般的には婚約したからと言って直ぐに公表する事はなく、周囲の状況を見極めてからとなるのだが、今回に関してはジュードとマリリアの事が学園内で噂として既に広まっており、そこから外部へ伝わるのも時間の問題だろう。それがなくても、王宮に出入りするジュードと彼に尽くすマリリアの姿を見れば勘の良いものは気が付く。
ジュードの実家にはいち早く知らされた。驚いた父親が王都へ飛んできたが、ジュードが直接会う事はなく、マルグリットが対応した。
「おっ、王太后様のご尊顔を、はっ、拝し...」
「余計は挨拶は必要ありません、手短に用件を伝えます。事前に伝えた通り、ジュード殿へ孫娘のマリリアを輿入れさせます。聞けばジュード殿は三男坊で実家へは戻れないそうなので王家で預かりました。どこかの上級貴族の養子にするつもりです。ですから今後は肉親だからと気安くジュード殿に接近しない様に。他家が何か言ってくる場合は王宮に知らせなさい。私が対応しますので、独自の判断で動かない様に。そうそう、ジュード殿に関する事は全て他言無用です。漏らしたら家を潰しますよ。」
「はっ、はい〜...絶対に他言しません〜」
マルグリットの前で萎縮してしまった父親は渡された財貨を持って地元へ戻って行った。
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ジュードとマリリアの婚約の噂が学校内で広がるのに時間は掛からなかった。有力貴族家の子女から伝わったのだろう。マリリアにお祝いの言葉を述べる生徒が多い一方で、ジュードへの風当たりは強くなった。嫉妬した男子生徒の何人かが木剣での決闘を申し込んだ事もあったが、ジュードは手加減なしで打ち払った。
貴族家の当主でこの件に異議を唱える者はいなかった。中小の貴族家はそもそも王族の婚姻に異議を唱えられる立場になく、また有力な貴族家であってもフレデリカの親であるヨミナス伯爵への厳しい処罰を知っていて異議を唱える事を恐れた。
婚約の件が周囲に知れ渡る頃からマリリアの遠慮はなくなった。これまでも王宮内のジュードの部屋で読書をする事はあったが、最近では、ジュードの部屋の隣にあるかつてマルグリットが使っていた部屋に引っ越していた。ジュードが使っている英雄王ジークの部屋と、マリリアが引っ越した王妃マルグリットの部屋は、扉一枚で直接繋がり、人目を気にする事なく自由に行き来できる。そして今ではその扉を通って真夜中に寝巻き一枚の薄着でジュードのベットに潜り込んでいる。
「マリリア、未婚の女性が男性の寝室に来るのは良くない。」
「私は以前からこちらのお部屋に出入りしています。それに治療の際にジュードの全てを見ていますので今更何を見ても困りません。」
「そういう事ではないだろう。就寝中の男のベットに入ってはいけないと教わらなかったのか。それも半裸の様な姿で。過ちがあれば大問題になるぞ。」
「私はジュードに全てを捧げるつもりですので何の問題もありません。それに家族は応援してくれています。寝所での作法はお祖母様とお母様に教わっていますので、夜伽を求められればいつでも応じられます。」
・・・あぁ、これはダメだ。止めるつもりはないな。彼女の部屋の不寝番も見て見ぬふりをしているのだろう。だとすればマリリアの行動をマルス王達は知っている筈だ。これはもう家族ぐるみと言って良いだろうな。・・・
「そんな事は求めていない。とにかく夜に部屋へ来るのは必要な時だけにしてくれ。」
「分かりました。夜にこの部屋へ来るのは、なるべく、控えます。」
似た様なやり取りは何度もしたが、マリリアの夜の訪問がほんの少し減るだけだった。マリリアはベットに入ってもジュードの腕に抱きつきながら眠るだけで、正確に言えば眠りの深いジュードが何かされても気付かないだけかも知れないのだが、彼女がジュードの睡眠を妨げる事はない。ジュードも次第に気にしなくなった。