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第五十四話 スーベニアの医療支援

【登場人物】

ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉

ジーク かつてジョルジアを治めた英雄王 〈勇者〉

シンシア ジークの第二王妃、既に故人 〈聖者〉

マルス 現在のジョルジア王でジークの息子

マリリア ジョルジア王の末娘

ミリア スーベニア大聖堂のシスター 〈隠者〉

ミケ 怯者の精霊

ジョルジア王国に高度な医療技術はない。ジュードに対する必死の治療は続けられたが、一生消えぬと思われる外傷、視力や聴力の低下、歪な状態で接合しつつある骨折箇所、内臓にも深刻なダメージがあると予想され、これをジョルジアで完治させるのは困難だと判断された。そうした状況下でジョルジア王マルスは末娘マリリアを謁見室に呼び出した。


「マリリアはなぜ呼ばれたか分かっているか。」


「はい。私はジュードが襲われた原因を作り、またその後の彼に対する拷問や決闘裁判などの残忍な行為に加担いたしました。その罪に対する罰を受けねばなりません。どのような罰でもお受け致します。」


「良いだろう。では、王女マリリアを王族籍から除籍する。今この時よりマリリアは平民となり、今後はジュード殿のみに仕えよ。先ずはジュード殿の治療を進めねばならんが、知っての通り我が国にそれが出来る程の医療技術はない。治療への協力を請う為にスーベニア神聖国へ急ぎ出立せよ。」


「王命、謹んで拝受致しました。」


父王マルスと交わした言葉はそれだけだった。マリリアは自死を言い渡されたとしても従う覚悟だったが、ジュードに仕えよというのは予想外だった。マリリアは未だにジュードに会う事が出来ずにいたが、彼に仕えよという王命に反感や嫌悪感は感じなかった。むしろもっと酷い扱いをしてくれた方が気持ちが楽になれると思った。


ーーーーーーーーーー


マリリアは急ぎ旅装を整えて翌日にはスーベニア神聖国に向かって旅立った。女性の旅行には危険が伴うので、男装し、長い髪を切った。同行者は近衛兵2名だったが、幼少の頃から支えてくれた近衛兵ではなく、初めて見る者達だった。彼らはマリリアの護衛ではなく、スーベニア神聖国への父王からの親書や御礼品の護衛だと理解していた。長距離を自分の足で歩く、自分の荷物は自分で持つ、身の回りの事は自分でやる、宿がない時は野外で野宿する、どれも初めての経験だったが、旅を続けるうちに慣れていった。


スーベニアに到着して国境の検問所に目的を告げると、国境警備隊は馬車を用意してくれた。荷物を運ぶ為の馬車で、座り心地は悪かったが、移動は早くなった。この旅にはミケが付いて来て、旅の間に色々な話を聞かせてくれた。かつての魔神との戦い、紋章の精霊、ジュードと出会ってからの事など。一人で話している様に見えるマリリアに近衛兵は怪訝な眼差しを向けたが、マリリアは気にしなかった。


大聖堂に着くと隠者のミリア様が出迎えてくれた。ミリア様はかつて英雄王ジークに協力した方々の一人で、紋章を持たれる方で現在もご存命なのはハルザンドのイェルシア様とスーベニアのミリア様だけだった。ミリア様の紋章の力は特別で、天啓により神の御声を聞く事が出来ると言われている。一通り挨拶を述べて部屋へと案内される間にミリア様とミケが何か話していたが、内容は聞こえなかった。


ジュードの治療への支援をミリア様は承諾してくれた。直ぐに医療班を派遣して下さると言う。スーベニア神聖国の医療技術は、かつての聖者シンシア様には及ばないが、大陸随一と言われている。そのスーベニアの支援が得られるなら、ジュードが負った傷も完治する可能性が高い。マリリアは安堵した。それから医療班と共に帰国しようとすると、マリリアだけミリア様に止められた。


「マリリアさん。貴方はここで紋章について学ばねばなりません。学びが必要だと天啓によって神から告げられています。」


「私はジュードに仕えよと命じられています。ですから早くジョルジアに戻ってジュードの側に居たい。治療のお役には立てませんが、側に居れば、私でも何か出来る事がある筈です。」


「命じられたから? そうじゃないでしょ。今の状況は、ジュードさんが無闇に人を殺害する筈がないと信じられなかったから起きたのではなくて? 信じていたら彼に対する暴力に反対していた筈です。あなたは彼を信じきれなかった事を悔いていて、悔いているから彼に償いたいと思っている。誰かに命じられたからではありません。違いますか?」


「そっ、そうです。私が彼に償いたいと言うのは、命じられたからではありません。」


「少しだけ素直になりましたね。もう少し掘り下げたいところですが、今は本題に戻りましょう。先程の話ですが、もし本当に彼の為に何かしたいのなら、尚更あなたはここで紋章について学ぶべきです。」


「どう言う事でしょうか?」


「あなたにはミケが見えているのでしょう。つまり、あなたは紋章を持っています。その力を学べば、彼のお役に立てるでしょう。」


「私が...」


マリリアは困惑した。ミリア様がそう言うのなら自分は紋章を持っているのだろう。天啓によって学びが必要だと告げられたとも言われた。ジュードの役に立つなら何でもしたい。でも本当に役に立てるのだろうか。


「紋章について学べばジュードの役に立てるのでしょうか?」


「それはあなた次第です。でもあなたはあなた自身の思いとして彼に償いたいのでしょう。その気持ちが本物なら、どんな困難も乗り越えられる筈です。そうすれば、あなたは彼のお役に立てます。」


「私次第...分かりました。ここで学ばせて下さい。宜しくお願いします。」


それからの3ヶ月間、マリリアはシスターの衣装を纏い、早朝は神への祈り、午前中は教会の奉仕活動や医療行為の補助、午後は紋章の力を引き出す為の修行、夜は宗教学や言語学などを学びながら過ごした。その繰り返しの毎日だった。他者からすれば退屈なものかも知れなかったが、もともとマリリアは知識欲が強く、新しい学びが得られるこの機会を楽しんでいた。また毎朝の神への祈りを通じて自分の中にある暗い気持ちが徐々に薄れていくのを感じていた。


修行により紋章の力を使える様になっていった。マリリアの紋章は聖者だった。

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