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第四十八話 試験結果の改竄

【登場人物】

ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉

マリリア ジョルジア王の末娘

「今日はミケがいないわね。」


マリリアは授業の合間にジュードといる事が多くなった。この状況はまずい。ここAクラスは上級貴族家の子息が大半を占め、例外は平民のライナスと、騎士爵三男坊で平民と同じだと見做されているジュードだけ。上級貴族家の子女は王女であるマリリアとの親交を深めたいだろうが、マリリアはジュードにばかり話しかけている。ジュードは子女達の嫉妬の視線に晒される事になってしまった。


「ミケは学校には来ませんよ。」


そう言ってもマリリアは気にしない。それならさっきの授業の話をしましょう、野獣狩りの話を聞かせて、と話題が変わるだけで、ジュードの側を離れなかった。他の生徒がやんわりと嗜めてもマリリアは相手にしない。そんな日が続く中でジュードの入学試験結果への疑惑が浮上した。毎月末の試験でジュードの成績が極端に悪かった為だ。


「ジュードの入学試験で何かの不正があったのではないか?」

「疑いのあるジュードをAクラスから外すべきだ。」

「いや、不正入学したなら退学だ。」


という話がAクラスの担任教師と生徒から出た。ジュードとしては他のクラスへ行っても良いのだが、マリリアが猛然と抗議した。


「入学試験での不正は憶測でしかないのでしょう。そんな理由が罷り通って良い筈がありません。ジュードがクラスを移るなら自分も移ります。」


「マリリア様、この様な平民を庇う必要はありません。」

「平民が我々高貴な血筋の元達と同じ場所に居るべきではないのです。」


「何を言っているの。貴方達はそんな目で同級生を見ているのね。軽蔑します。」


話は他の生徒を巻き込んで徐々に大きくなり、騒ぎが大きくなって来たところで1学年全体を管轄する学年主任に関係者が呼び出された。呼び出されたのは担当教師、ジュード、マリリア、それとジュード外しに熱心だった生徒が2名。学年主任は机にジュードの入学試験とその後の月末試験の用紙を並べていた。一目見れば筆跡の違いは明らかだった。雑な改竄だった。学年主任はどちらがジュードの筆跡なのか確認したいと言うが、既に答えが分かっている様だった。


「ここに生徒が4人いるわ。次の月末試験を学年主任の前でやりましょう。今、この場で。」


「入学試験時の答案用紙と今回の答案用紙とで筆跡比較すれば分かる気もするが、それでも文句は出るかも知れないね。マリリア君の提案通り確認するのが良いだろう。」


学年主任がそう言うと担当教師と生徒2名の顔が引き攣った様に見えた。学年主任はそんな3名の様子を無視し、別の教師を呼んで次回用の試験問題を準備させた。複数の教師が監視する中で4名は試験を受け、結果は直ぐに出た。点数は高い順にジュード、マリリア、後は生徒2名が横並び。まだ教えられていない範囲を含んでいたので前世の記憶があるジュードは有利、マリリアも流石は最優秀者だった。


「この結果を見ればジュード君の学力は問題なさそうだが、いちおう筆跡を調べようか。」


そう学年主任が言うと担当教師がガックリと膝をつき、ガクガクと震えながら、彼が企んでいた事を白状し始めた。やはり担当教師がジュードの答案用紙を別のものに差し替えていた。先程の試験結果でジュードの学力が証明され、筆跡を調べるまでもなく、入学試験時の不正の話は消えた。あとは月末試験の答案を誰が改竄したのかという問題だけが残る。担当教師に疑いの目が向けられるのは明らかだった。


「さて、誰の指示か聞かせてもらおうか。」


「わ...私の独断です。」


「君が? 君になんの利益もないだろう。理由はなんだね。」


「この...この生徒が私のクラスにいるのは...適切ではないからです。」


「つまり君は君自身の判断でジュード君を貶めようとしたんだね。分かってると思うが、試験結果を改竄するなど、教師として絶対にやってはいけない事だ。君が過去に不正をしていないかも確認し、その結果によってはもう教師として働けなくなるよ。」


担当教師は下級貴族の出身で、成績優秀であったので高等学校の教師に採用された。しかし高等学校で出世していく為には下級貴族の身分のままでは難しく、王族や上級貴族の後ろ盾が必要だった。そんな彼にとってAクラスを担当する事は出世への大きなチャンスだった。それにしても試験結果の改竄は、少し調べれば直ぐに露呈する稚拙な行いだった。高等学校の教師になった人物の企てとは思えない。


「どうせどこかの貴族家に唆されたんでしょ。」


マリリアが言うと担当教師は大きく首を横に振った。


「そっ、そんな事はありません。私の...私自身の判断です。」


担当教師はあくまでも自分の単独犯だと言う。まあ仮に貴族家が絡んでいたとしても言わないだろう。言ってしまえば自分や家族の命が危うくなる。学年主任もマリリアもそれが分かっていて、それ以上は深く追求しなかった。


「まあ、この場はここまでとします。校内での騒ぎが大きくなってしまったので、今回の件については学校集会で私から説明します。Aクラスの担当教師も変更しますが、騒いだ生徒については注意に留めます。ジュード君、マリリア君、それで良いですか?」


ジュードとマリリアは学年主任の提案を了承した。改竄した担当教師については、学年主任は事前に学長と相談済みであった様で、その場で停職が言い渡され、数日後に正式に解雇された。

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