第四十七話 冒険者への登録
【登場人物】
ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉
マリリア ジョルジア王の末娘
ライナス ジュードの学友、冒険者
アルベド ライナスの冒険者仲間
ミケ 怯者の精霊
ジュードの実家からの仕送りはなく、学費や生活費は自分で稼がねばならなかった。幼少の頃から貯めてきた金銭があるので直ぐに生活に困る事はないが、早いうちに稼ぐ手段を得る必要があった。ジュードは冒険者になる事を選択した。
冒険者とは、都市周辺での素材採集や調査を請け負う者達で、凶暴な獣の討伐を請け負う事もある。上級ともなればその戦闘力は侮れず、特に森林や洞窟内などで力を発揮する。どの領にも属さない自由民である事が多く、それは身元保証が必要ない為で、誰でもなれる職業だった。もちろん領民でも冒険者になれる。年齢の制限もない。役所での簡単な手続きさえ済ませれば証明書が発行された。後は指定された場所に採集した素材などを持ち込めばお金を得られる。魔獣狩りだけは特別で、これは役所から指名された熟練の上級冒険者だけで行われる。
素材と言っても、洞窟や山岳地域での稀少鉱物、森林で採取する薬草、狩りによる野獣の肉や皮革など様々な種類がある。しかし鉱物も薬草も野獣もそれを専門とする業種がある。例えば野獣を狩るのは通常は狩人。その狩人が手を出せない危険な野獣、あるいは危険な地域を縄張りとする野獣などが冒険者の獲物だった。
「君も冒険者になるのかい。」
ジュードが役所で手続きをしていると声を掛けられた。声を掛けてきたのは同じ学校の同級生、Aクラスに一人だけいる平民の青年だった。名前は確かライナス。ライナスはアルベドという青年と共に冒険者の登録に来ていた。
「君はライナス...だったかな。俺はジュード。冒険者になって生活費を稼ぐつもりだよ。」
「僕達も同じさ。確か君は貴族だよね。生活費には困ってないだろ。」
「貴族と言っても田舎の騎士爵だから貧乏なんだよ。それに俺は三男坊だから親も金を出すつもりはないさ。」
「じゃあ平民の僕達とそんなに変わらないのかな...って話は貴族様には失礼だったかな?」
「事実だから気にしないよ。堅苦しいのは無しで、普通に接してくれると助かる。」
「それは良かった。同じクラスに気軽に話せるやつがいると僕も嬉しいよ。ところで僕達はこれから薬草を採取しに行くつもりなんだけど、君も来ないか? 入学前から冒険者をやってるから、色々と教えられると思うよ。」
「俺は狩りを中心にやっていこうと思っているけど、今日は薬草採集に同行させてもらうよ。もう少しで手続きが終わるから待っててくれ。」
それから暫くの間、ジュードは学校が休みの日は採取や狩りをして小銭を稼いだ。ジュードが狙うのは灰色熊やモリイノシシなどの巨大な野獣で、それを一人で街まで持って行くといつも驚かれた。素材の買取場所でライナスとアルベドに出会う事もある。彼らは主に薬草と小動物を狙っていて、手にした金額からすると腕は良いと思えた。彼らに出会った日は夕食を共にする事が多い。食事中は野獣や薬草の情報を交換したり、街でのちょっとした出来事を教えてもらったりで、ジュードは楽しく過ごせた。
ある日の夕刻、ジュードが素材の買取場所まで鹿を担いで王都への道を歩いていると、後方からジュードを呼び止める声があった。
「そこのあなた、その変なネコを私に譲りなさい。もちろん対価は払うわ。」
振り返ると同じクラスの女性、入学試験で最優秀者だった王女が立っていた。名前はマリリア。高そうな鎧を着込み、背中に弓、腰には細身のレイピアがある。その姿は姫騎士と呼ばれていた頃のマルグリットとよく似ていた。彼女の周囲には3名の騎士。1人の騎士が手に数羽のウサギを持っているので、狩りにでも行っていたのだろう。マリリアもミケが見える様だが、ミケが見えない騎士達は困惑している。
学校にいる時にミケはいない。学校について来たのは入学式とその後の数日だけだった。普段の授業が退屈なのだろう。だが野獣を狩りに行く時は気分転換について来る。この日もミケはついて来ていた。マリリアがミケを見たのはこれが初めてだったかも知れない。或いは入学式後の教室でジュードの方を見ていたのはミケがいた為か。何れにせよ、ミケが見えると言う事は彼女も紋章を持っているという事だった。
「殿下、ミケに飼い主はいません、勝手について来るだけです。」
「あら。ミケと言う名前なのね。初めましてミケ。私とお友達になって。」
マリリアはミケに触れようとするが、実体を持たないミケには触れられない。マリリアの手は空振りする。それでもマリリアはミケを呼びながら触ろうとしていた。ミケが見えない者にすればマリリアのその言動は奇異に感じられた事だろう。その様子を近くで見ていた騎士達は急に抜刀し、1名はマリリアの前に立って彼女を守る姿勢をとり、残り2名は更に前で剣先をジュードに向けた。
「貴様、どんな術で姫様を惑わしている。武器を置いて腹這いになれ。警告を無視すれば斬り捨てる。」
「ちょっと‼︎、何をしてるのよ。剣を収めなさい。この人は同じクラスの生徒です。」
ジュードに剣を向ける騎士達を見てマリリアは慌てて制止した。騎士達は剣を収めたがジュードへの警戒は解いていない。
「殿下、ミケが見えるのは我々だけです。」
「えっ、そうなの? どう言うことかしら...まあ良いわ。今はゆっくりお話しする事が難しそうね。学校でお話しましょう。」
マリリアはジュードにそう言ってから騎士達を引っ張ってその場を後にした。