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第四十五話 王都へと向かう青年

【登場人物】

ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉

ジーク かつてジョルジアを治めた英雄王 〈勇者〉

マルグリット ジークの第一王妃、ジョルジアの王太后

ミケ 怯者の精霊

ジョルジア王国の片田舎から王都へと向かう馬車の中から一人の青年が外を眺めていた。かつての荒野は今では大農業生産地帯へと変貌し、僅かな雑木林を除けば、見渡す限り畑が続いている。多くは小麦畑だが、芋や豆、あるいは採油の為の菜の花なども植えられ、そこだけ小麦畑とは色が違う。時折、小さな村が遠くに見える。村毎に色彩に特色があり、屋根が赤黒い色で統一されていたり、黒い屋根で石壁が薄い黄色であったり、それは意図的ではなく単に建築を請け負った大工や近くで取れる建材の違いだろうが、見ていて飽きなかった。


ここジョルジア王国では15歳になった全ての貴族子女に高等学校への入学を義務付けている。馬車に揺られる青年も高等学校へ入学する為に王都へ向かっていた。高等学校はマルグリット王太后の命により30年程前に設立された。王国の政務や国防の将来を担う人材を育てる事が目的であるというが、それは表向きで、実際には王家と貴族家の繋がりを維持すると同時に、緩み始めた規律を引き締め直す必要があったのだろうと青年は理解していた。


かつてこの国は英雄王ジークによって再興され、その後の急激な経済発展によって周囲の国々と肩を並べられる程に成長した。しかし英雄王が50年前に魔神を追って神界へと行くと王家の求心力は低下し、宮廷を牛耳る法服貴族、大領地を持つ名門貴族、ジョルジア再興後に立身出世した新興貴族に別れて争う様になり、その事がジョルジアの政治体制に軋みを生じさせ、政策立案やその実行へも影響し始めていた。


「ジュードさぁ、いつになったら王都につくんだよぉ〜。」


ジュードと呼ばれた青年の周りを飛びながらミケが言う。ミケは紋章の精霊で、ジュードにしか見えない。子供の頃にミケと青年は再会し、それからは常に行動を共にしている。片田舎にある実家を出てから既に10日以上。そろそろ旅に飽きてきたのだろう。青年は騎士爵家の三男坊、決して裕福ではない。親が専用の馬車を準備してくれる筈もなく、平民向けの乗合馬車で王都へと向かっている。途中の街で乗り換えたり出発日待ちで宿泊する事になったりで、どうしても日数が掛かってしまっていた。


「あと10日ぐらいかな。」


ミケにしか聞こえない小さな声と仕草でジュードは答えた。値段は高くなるが王都へ直行する乗合馬車もある。しかしジュードは宿泊する街や村の様子や馬車から見える景色を楽しみたかったので、ミケには悪いが、このままゆっくりと旅をするつもりだった。


「なかなか楽しい旅じゃないか。ミケも景色を楽しんだら良いんじゃないか。」


「え〜、さっきから同じ景色が続いているだけだよ。」


「ははは、そう言わずに付き合ってくれよ。」


ジュードには親すら知らない秘密がある。それは彼が英雄王ジークの転生体だという事だった。なぜ転生したのか、なぜジークの記憶を持っているのかは分からない。幼少の頃から徐々にジークの記憶が戻り始め、それに伴って見た目もジークの若かりし頃に近付いていった。勇者の紋章も引き継いでいた。紋章を持つが故にミケと再会する事が出来た。


ジュードは自分が英雄王の転生体である事を公にするつもりはない。魔神の様な脅威があるなら別だが、この平和な時代にジークが現れる必要はない筈だった。既にジョルジアの王位はジークとマルグリットの息子であるマルスが引き継ぎ、王太后となったマルグリットがそれを補佐している。求心力低下や貴族間の対立構造などの苦労はあるだろうが、いきなりジークが現れても混乱させるだけで、問題の解決にはならない。そうであるなら、自分は自分で新しい人生を歩もうと考えていた。


それに、ジークが神界へ去ってから以降、ジークの生まれ変わりだと名乗り出る不届き者は多数いて、その全てが詐欺・詐称だった。ジュードが育った片田舎にもその話が伝わっている。今ではジークと名乗る事は自分が犯罪者だと宣言するに等しかった。


「退屈だよぉ〜。」


そうぼやくミケを横目にジュードは風景を眺めていた。かつて自分が再興に携わった国が今でも変わらずに残っている事がジュードは嬉しかった。

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