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第三十八話 バラモス派の企て

【登場人物】

ジーク 主人公 ジョルジアを治める英雄王 〈勇者〉

シンシア 主人公の第二王妃 〈聖者〉

カイン アルムヘイグ王国の大司教 〈賢者〉

イェルガ ハルザンド王国の第一王子 〈剛者〉

ヴァルベルト ゲイルズカーマイン帝国の最後の皇帝 〈怯者〉

ミケ 怯者の精霊

ジーク・カイン・イェルガ・シンシアの四人、それにミケを加えて、場所を変えて改めて会話を続けた。


「魔人と君達が呼んでいる存在は、元は普通の人だよ。バラモスが〜、とか言いながら祈ってたから、何かの宗教の信者だろうね。」


「またバラモス派でしたか。それで彼等は何をするつもりだったのですか?」


「君とバラモス派やヴァルベルトとの関係も知りたい。」


「待って待って。質問は1つずつだよ。まあ良いや。取り敢えずバラモス派とかいう奴等とヴァルベルトの事だね。」


ミケは話し始めた。バラモス派は当初、ヴァルベルトが持つ怯者の力で紋章の全てを集めて神界への入口を開いてこの下界...つまりジーク達が住むこの世界に神を顕現させる事だった。神がこの世界に現れれば全ての人間が救われるだろうと。本当にそれが可能なのかどうかはさて置き、バラモス派はそれが出来ると信じていた。しかしヴァルベルトが討たれた事で彼等の企ては頓挫した。


「神界への入口を開いたり、神をこの世界に顕現させる事なんて可能なのだろうか?」

 

「紋章の力を集めるだけで神界への入口を開くなんて聞いた事ないね。それだけじゃ無理だよ。」


「可能なのか?」


「後で紋章について補足するけど、僕の様な紋章の精霊と同化している君達の魂は普通の人と比べて一際強い力を持っているんだ。その魂を消費すれば、つまりは犠牲にすればって事なんだけど、神界への入口を開く事が出来るかも知れない。あくまで可能性の話だけどね。でも怯者が奪えるのは紋章の力だけで、魂を奪ってるんじゃないから、それだけで入口を開く事は出来ないよ。」


「何れにせよ、ヴァルベルトとバラモス派は神界への入口を開く為に紋章の力を奪おうとしてたんだな。」


「そうそう。まあさっきも言った通り怯者が力を奪うだけでは無理なんだけどね。たぶんだけど、先ずは紋章の力を奪ってから全てを支配して、その後に神界の入口を開くつもりだったんじゃないかな。」


「だがそれだとヴァルベルト自身も犠牲になるだろう。」


「ヴァルベルトは何も知らないよ。彼はバラモス派の支援で権力の座に就きたかっただけ。バラモス派の企みは聞かされていなかった。」


「そのヴァルベルトが消えて、バラモス派の企ては潰えたのだろう。魔人や魔獣はどうして存在しているんだ?」


「潰えてないよ。手段を変えただけさ。バラモス派の裏には魔神がいて、魔神はまだ諦めてない。」


「魔神? 我々の知る神とは違う存在なのか?」


「それも説明するね...」


魔神は神界に住む神々の一柱で、魔=下界の自然法則を捻じ曲げる力、つまり魔術や呪いなどを司る。しかし下界では一部の紋章の力を除けば魔術に類するものは存在しない。よって魔神を崇める者もいない。それを変える為に魔神が自ら下界へ赴き、自身の超常の力で下界を支配しようとした。


「複数の神がいる事すら我々は知らないのだが...」


「いるよ。単純に1人2人と数えられる存在ではないけどね。」


「それで、ヴァルベルトが消えた現状で魔神は何を狙っているんだ。」


「君達のような強い魂を集められないなら、代わりに普通の魂を数多く集めるだけだよ。」


そしてその手段として、神を顕現させる術と偽って、人間を魔神の手先となる魔人へと変える術をバラモス派に与えた。バラモス派はそれを信じてしまった。それが多くの人々の生活を破壊する事に繋がるとは知らずに。


魔人と化したバラモス派は魔神の指示に従い、魔神の依代となる下界での肉体の作成と、その作成に必要な贄の収集を始めた。その贄というのが魔獣によって殺された人々の魂だった。依代の作成、魔獣の群れの発生、それらも魔神から与えられた術だった。先程の大きく黒い影は、魔神の依代の試作品で、魔神の為の依代であるが故にその肉体は神性を帯び、普通の攻撃は効果がない。神性を帯びた存在に攻撃を届かせ得るのは勇者だけだったのは先程の戦いで明らかだった。魔に染まっていたミケはその試作品を動かす為の動力とされていた。


「神に届き得る力、それが勇者の紋章の特徴だね。もしかすると魔神に限っては聖者も可能なのかも知れないけど、聖者は攻撃には向かないからね。じゃあ、ついでに紋章についても説明するよ。」


紋章とは、神界に住む神々が下界の人間に対して特別な力を与える為の手段で、魂が新たな肉体に宿る=人間が産まれる際に与えられる。紋章の精霊はその特別な力を与える為の謂わば印で、精霊が魂と同化する事でその人間は神から与えられた力を発揮でき、同化していた魂が滅すれば=つまり死亡すれば精霊は神界へ戻る。


「勘違いしないで欲しいのは、魔神の存在自体は悪じゃないよ。他の神々を出し抜いて下界を支配しようとしたが故に悪なんだ。だからその悪を懲らしめる為に君達は紋章を授けられたんだと思うよ。まあ、神々がなぜ紋章を授けるのか、どのタイミングで誰に授けるのかは、それこそ神のみぞ知る...なんだけどね。」


ミケは様々な事を教えてくれたが、話は理解すれど、腹落ちはしなかった。現時点で真偽を確かめようがない。それに、魔神が悪かどうか以前に、この突拍子もない話を誰が信じるだろうか。神界の存在ですら神話の中の話で、そこに複数の神が存在するとか、神々が紋章を与えているとか、そして魔神がこの世界を支配しようとしているとか、いずれも普通の人々にとって容易に受け入れられる話ではない。ジーク達にしても、目の前にミケがいなければ、妄想・空想の類いだと切り捨てたかも知れない。


「我々の理解を超えた話だったが、いずれにせよ、魔神やバラモス派の企みは止めねばならない。」


「そうですね。我々がやるべき事は変わっていない。」


それが結論だった。魔人がバラモス派の信者かどうかに関係なく、背後に魔神がいるかどうかに関係なく、魔獣の被害を止める、そして魔人は討伐する、それだけだった。ジーク達はミケの話を直ぐには公表せず、時期を見て、差し障りのない範囲に絞って公表する事とし、当面は魔人討伐を継続する事にした。

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