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第三十七話 紋章の精霊

【登場人物】

ジーク 主人公 ジョルジアを治める英雄王 〈勇者〉

シンシア 主人公の第二王妃 〈聖者〉

カイン アルムヘイグ王国の大司教 〈賢者〉

イェルガ ハルザンド王国の第一王子 〈剛者〉

ヴァルベルト ゲイルズカーマイン帝国の最後の皇帝 〈怯者〉

ミケ 怯者の精霊

「なんだよ、多勢で攻撃してくるって。正々堂々と一騎討ちしろよ。」


ジークの一撃を受けて崩れゆく大きな影の後ろから淡く赤黒い光の玉が飛んできた。声はその光の玉から聞こえてくる様だった。イェルガが、次いでジークがその玉に斬りつけたが、剣は光の玉を素通りした。カインの放った炎の魔術も光の玉を通り抜けた。ジークは光の盾で玉を弾こうとしたが、これも素通りした。いずれの攻撃も通らない。何度やっても同じだった。


「無理だよ無理、僕は下界での実体がないからねぇ。」


戦場に似つかわしくない軽い口調で話しながら光の玉はフラフラと飛び続ける。そのままシンシアを取り囲む先鋭部隊の所まで飛び、その光の玉を捕まえようと先鋭部隊の隊員が腕を伸ばすが、やはり素通りしてしまう。光の玉は隊員達を揶揄う様に隊員の近くをフラフラ。そのままシンシアの前をゆっくり飛んでいた時、急にシンシアが両手を伸ばして光の玉はをがっしと掴んだ。


「ふふっ、捕まえましたよ。」


「えっ、なんで?」


誰も触れられなかった光の玉をシンシアが捕まえた事に驚き、周囲は一瞬硬直した。光の玉の声の主も驚いた様だった。しかしシンシアはそんな周囲の状況を気にせず、光の玉を掴んだまま聖者の祈りを始めた。シンシアとその周囲が光り出す。


「これが魔に取り込まれている状態なのかしら。嫌な感じにするこの光を聖者の力で浄化してみるわね。」


「やっ、やめろ〜〜...ギャアァァ...グギャアァァァァ。」


シンシアの祈りが始まると光の玉が苦しみだした。逃げ出そうとするが逃げ出せない。すると光の玉の赤黒さは薄れ、徐々にシンシアが発する周囲の光に同化していった。


「もう少し。苦しいだろうけど我慢してね。」


光の玉は尚も苦しそうにもがいていたが、その色がシンシアの光と完全に同化する頃には大人しくなっていた。そうして暫く後に光が収まってくると、シンシアの手には変わった姿の動物がいた。形はネコ?の様だが、その背には蝙蝠の様な黒い羽があった。シンシア自身もこの動物には驚き、思わず手を離してしまった。


「あら。可愛いお姿ね。子猫ちゃん。」


ネコ型の動物はシンシアの手を離れて暫く周囲をパタパタと飛び回り、その後にジーク達の前に来て、空中に浮かんだ。


「あ〜あ〜、初めまして。いや違うか。こっちの人はお久しぶりかな。言っとくけど、僕はネコじゃないよ。見たら分かると思うけど。」


そう言いつつ空中で毛繕いしている姿はネコそのものだが...愛らしいその姿からは敵意が感じられない。


「魔を払ってくれてありがとう。もう元に戻れないと思ってた。先ずは自己紹介するよ。僕は怯者の精霊。ヴァルベルトが生まれた時に彼の魂と同化してたんだけど、同化する時に魔神によって魔に染められてしまって、さっきみたいな姿になっちゃってたんだ。神界に戻れなくてどうしようかと思ってたんだ。」


「精霊? 魔神? 神界に戻るってどう言う意味だ。魔人や魔獣と何の関係がある。詳しく教えてくれ。」


「君自身についても教えて欲しい。君の様な存在に出会ったのは初めてなんだ。」


「あ〜、何も知らないんだね。良いよ。魔を払ってくれたおかげで元の姿に戻れたんだし、代わりに僕が知っている事は何でも教えてあげる。何を聞きたいかな?」


ネコの様なこの精霊が様々な事を教えてくれるとして、それがどこまで本当の話か確かめる事は出来ないが、真偽を判断するのは後で良いと考えて、現時点で気になる事をジーク達はネコに聞く事にした。魔人や魔獣のこと、先程の大きく黒い影のこと、紋章の精霊のこと、そして魔神のこと、聞きたい事は沢山ある。幸いにも、質問すればネコは気軽に答えてくれそうだった。


「では幾つか質問させて欲しい。でもその前に、君の名前を教えてくれ。もし名前がないなら、君を呼ぶ時に不便だから、君の事をミケと呼ぼう。」


ミケネコだからミケ。ジークは見た目でミケと決めたのだが、ミケはその事を知らずに新しい名を喜び、僕はミケだ僕はミケだと連呼しながら周囲を飛び回った。


気がつくとジーク達の周りに集まってきていた護衛部隊やライドル国軍の兵士達が目を丸くしていた。


「あの、ジーク様。どなたかとお話しされているのでしょうか? シンシア様、イェルガ様、カイン様もジーク様と同じ方向を見ている様ですが...」


「あぁ、この彼と話して...ん? もしかして見えてないのか?」


「はい。彼とは誰の事でしょうか?」


「そうか。どうも紋章を持つ者にしか見えない様だな。」


どうも浄化された後のミケの姿は紋章を持つ者にしか見えないらしく、何もない空中に向けて話しかけているジーク達を訝しんでいたらしい。ジークは何をどこまで話して良いのか即座に判断できず、兵士達には笑って誤魔化した。

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