表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/160

第三十六話 黒い影

【登場人物】

ジーク 主人公 ジョルジアを治める英雄王 〈勇者〉

シンシア 主人公の第二王妃 〈聖者〉

カイン アルムヘイグ王国の大司教 〈賢者〉

イェルガ ハルザンド王国の第一王子 〈剛者〉

ライドル共和国に入ったジークとシンシアの探索は思うように進まなかった。都市の有力者へ協力を要請し、過去の魔獣被害の情報を収集整理し、ライドル国軍と共に都市周辺を探索し、魔獣の群れが発生していれば討伐する。しかしライドル国軍の練度は低く、行軍速度も遅かった。加えて都市間の移動では各種手続きの為に足止めされた。これらが都市毎に発生した事が遅れの要因だった。かつてゲイルズカーマイン帝国を打倒した英雄ジークを一目見ようと民衆が集まった為に足止めされた事もあった。イェルガとカインが合流した時点では未だライドル共和国の半分の地域しか探索できていなかった。


最も歓迎されたのはシンシアだった。焦るジークを宥めつつ、シンシアは訪れた各都市および周辺の街や村で傷病者の治療にあたった。もともと小国であり医療施設も不十分だったところに魔獣被害が重なり、各都市には兵や民の傷病者が溢れていた。それ故にシンシアの治療は大いに歓迎され、感謝された。


「ありがてえ、ありがてえ...オラの足がすっかり元通りだぁ。」

「あぁ、オラの右腕もそうだぁ。シンシア様のお陰だぁ。」

「お美しい...あのお姿はまるで女神様の様よ。」

「シンシア様は聖女...いや大聖女だ。こんな素晴らしい人はいねぇぞ。」


遂にはシンシアは今世の大聖女だと持ち上げられ、ライドルの教会がシンシアを聖女認定しようとしたが、流石にそれは止められた。それ程にシンシアの来訪に民衆は熱狂していた。この日もシンシアの治療所には多くの民衆が集まっていた。


そんな時にシンシアの治療所へ魔獣の群れが襲いかかった。


王妃であるシンシアにはジークが連れてきた護衛部隊が付いているが、魔獣の襲撃によって治療所にいた多くの民衆が無秩序に逃げ惑い、その勢いに押され、魔獣の群れに対する構えが出来ずにいた。魔獣の方も散り散りに逃げる民衆を追って広がり、群れとしての纏まりを欠いていた。護衛部隊の隊長はシンシアを守る事に専念すると決め、彼女を中心においた円陣を敷いた。そこへ騒ぎを聞きつけたジークとイェルガが駆けつけ、民衆を追い回している魔獣を一匹ずつ打ち倒していった。遅れてカインが駆けつけ、シンシアを囲む円陣の中に入った。


「シンシアさん、大丈夫ですか?」


「護衛の皆さんが守ってくれたので私は大丈夫です。ですが治療に来ていた皆さんが...」


「そちらはジーク王とイェルガさんが向かっています。」


暫くして魔獣を全て片付けたジークとイェルガがシンシアの所に集まった。周囲ではライドル国軍が怪我人の保護や逃げ遅れた民衆の避難誘導をしていた。そして改めて魔獣の群れが来た方向に目を向けると、魔人の集団と、その後ろに大きな影があった。


「あの後ろにいるのは何だ?」


「分かりません。普通の人型ではない様ですが...」


「まだ民の避難が終わっていない。考えている時間はないぞ。相手が動く前に俺とジークで突っ込もう。」


「先ずは私が魔術で先制攻撃します。」


「よし、行こう。」


カインが魔人の集団に向けて炎の球を数発放ち、その後にジークとイェルガは魔人に向けて駆け出した。魔人の集団はその場に座って何かを念じている。何人かがカインの炎に飲み込まれて消滅しても念じ続けていた。その魔人達の前に大きな影が出てくる。影は、人型の様にも、鳥の様にも見えた。実体が不確かなのか輪郭がぼやけている。未知の生物だった。イェルガは構わず斬撃を放ったが、影には効き目がない様だった。カインが続けて影に炎を放ったが、こちらも手応えがなかった。しかし最後に放ったジークの斬撃は影の一部を切り裂いた。


切り裂かれた影は後退りし、魔人達の近くに寄ると、幾つもの触手をその身から伸ばし、念じ続ける魔人達に巻き付けた。触手に巻き付かれた魔人達は精気を吸い尽くされた様に干からび、その場に倒れ込んだ。それでも他の魔人達は念じ続けている。そうして全ての魔人が干からびた時、影の輪郭はよりハッキリとなり、ジークに切られた箇所もいつの間にか元通りになっていた。今やその影は翼を持った人型になっていた。その人型の腕の先は幾つにも枝分かれした触手があった。


ジーク達はそれを黙って見ていた訳ではない。何度も攻撃を試みた。しかしイェルガとカインの攻撃は効き目がなく、逆に触手で弾かれていた。ジークも攻撃を試みたが、影の触手の攻撃に阻まれて容易に近づけず、僅かな傷を与えるのみだった。


「奴を倒せるのはジークだけの様だ。ジークは攻撃に専念しろ。防御や陽動はこっちで引き受ける。」


「了解だ。無理はするなよ。ダメージが大きい時は後ろのシンシアを頼るんだ。」


イェルガは大剣で、間に合わなければ自身の体で、ジークに迫る影の攻撃を弾き返した。当然ながらイェルガの鎧は破損し、身体に傷を負っていく。それでもイェルガは止めない。巻き付かれるのを避けつつ影の攻撃を弾き続けた。シンシアを守っていた護衛部隊の何人かもそれに続く。重症者が出れば後退してシンシアの治療を受け、そしてまた戦線に復帰した。


「何人かは右側から牽制して下さい。私は反対側から注意を引きつけます。」


「泥でも何でも投げつけて奴の視界を塞げ。」


カインも魔術を放ち影の視界を塞ぐ、あるいは注意を逸らさせた。カインも何度も触手に弾かれて傷だらけだったが、攻撃の手は止めない。そうやって仲間達が作ってくれた隙をジークは見逃さず、影の中心に向けて駆けた。


「今だ、ジーク。」


「お願いします、ジークさん。」


周囲の者達の視線がジークに集中している。


「うぉぉぉぉぉぉ...」


叫びながら突き出されたジークの剣は大きな人型の胸の中心を貫いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ