第二十七話 帝都決戦のその後
帝都での決戦後、各国首脳が帝国へ要求した内容は非常に厳しいものだった。軍事力を削減する、被害を受けた国々に対して賠償する、平和の為の新たな条約を結ぶ、それら事前の協議結果に加え、かつてゲイルズ王国に吸収合併された国はその意思があれば独立させる、との要求が追加された。これは実質的に帝国の解体を意味した。
帝国の前皇帝は宮殿の一室に軟禁されていたところを保護された。前皇帝は王者の紋章の力をヴァルベルトに奪われて意識を失っていたが、ヴァルベルトが斃された事により意識を取り戻していた。そして敗戦後の交渉の場に引き摺り出された。前皇帝としては、意識がない間に何が起こったのか知る由もないが、事実として帝国は無条件降伏するしかない状況にあり、各国首脳の要求を受け入れる事しか出来なかった。交渉の結果、帝国は旧ゲイルズ王国のみ領有する事となり、名を新ゲイルズ王国と改め、その国王には前皇帝とは別の人間が据えられた。
帝国の解体に伴ってカーマイン地域は独立し、新しいカーマイン王国の国王には若い青年が就いた。ジークは知らなかったが、ナディアには子供がいて、その子供こそが新生カーマインの国王となった青年だった。またナディアの弟が宰相として新国王を支えていく事になった。カーマインでの反乱は、ナディアが息子と弟の将来を憂いたが故の行動だったのかも知れない。多くの犠牲を出した反乱だったが、犠牲者の願いはカーマインの独立という形で実現された。しかしナディアの体調が回復する事はなく、彼女は息子が戴冠された姿を見てから静かに息を引きとった。
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ジョルジアでは王家の血をひくマルグリットが仮王として復興を進めたが、彼女は正式な王位に就くことを拒否した。彼女が王候補として挙げたのはジークで、その背景には、ジョルジアを取り戻してくれた救世主への国民の支持、そしてマルグリットのジークに対する淡い恋心があった。ジークを王に推戴してその妃になる事が彼女の願いだった。アルムヘイグ以外の国々もマルグリットに同調してジークを推した。国力のあるアルムヘイグに勇者の力を独占されるよりは小国ジョルジアの方が扱いやすいとの思惑だった。ジークは初め固辞したが、各国首脳からの強い要請を受け、また既に目覚めていたシンシアに背中を押され、最終的には王位に就く事を了承した。マルグリットが第一王妃、シンシアが第二王妃と決まり、小規模ながら戴冠式と同時に結婚式が執り行われた。
ハルザンド王国では第一王子のイェルガが目覚めた。イェルシアはハルザンド軍の軍権をイェルガへと返上し、自身は宰相補佐として政務を担当した。軍事を剛者である第一王子イェルガが、政務を智者である王女イェルシアが担い、一見すると万全の体制に見えた。しかしイェルシアは、マルグリットがジークの妃になったと聞くと、自分も妃にして欲しいとジークに迫った。ジークは丁重に断ったが、イェルシアは諦めず、定期的にジョルジアを訪れる様になっている。イェルシアが訪れた際にはマルグリットとシンシアがお茶会に誘うが、二人がイェルシアと何を話しているかをジークは知らされなかった。
アルムヘイグのベントリー領はジークの長兄が引き継いだ。但し、山岳民族が暮らす地域はジョルジア戦での功績を認められたヨルムに与えられた。ホドムも同様に功績を認められ一族が暮らす地域を与えられたが、ホドム本人と諜報部隊員だけはジークに仕えた。ジークの父母は慣れ親しんだアルムヘイグに残る事を選んだが、次兄が、そして他家に嫁いでいた妹が夫と共に、ジョルジアへ移り住んだ。カインはアルムヘイグに残こり、父親と同じ大司教となった。アルムヘイグ王家はカインに爵位を与えようとしたが、カインは爵位を辞退し、王家の面目を保つ為に勲章と褒章だけを受け取った。
スーベニアは旧帝国の教会や神聖騎士団と共にバラモス派の行方を追ったが、宮殿に残された末端の信者を捕らえたのみで、大した成果は得られなかった。宮殿から逃亡したマント姿の男達は黒い騎馬兵の集団に守られながら王都を脱出し、神聖騎士団はそれを止める事が出来なかった。統一教は改めてバラモス派を異端と認定し、大陸全土に通知した。また統一教は大聖堂にいるミリアと同様にキキを庇護下に置こうと画策したが、どんな待遇が提示されてもキキは興味を示さず、彼女は深き森に住むフーゲルの元へと戻っていった。
アルムヘイグ王国 ジークが生まれ育った国
ジョルジア王国 アルムヘイグ王国の東にある小国
ゲイルズカーマイン帝国 ジョルジア王国の更に東にある強国
スーベニア神聖国 アルムヘイグの南にある宗教国家 統一教
ハルザンド王国 アルムヘイグとジョルジアの北方にある砂漠の国
バラモス評議会 統一教古道派の分派であるバラモス派の集団