第二十四話 統一教バラモス派
ジーク 主人公 ベントリー領の領主
カイン ショーウェルズ大司教の息子
ミリア スーベニア大聖堂のシスター
ヴァルベルト ゲイルズカーマイン帝国の新皇帝
ジークがジョルジアでゲイルズカーマイン帝国への侵攻を準備していた頃、帝国の宮殿の一角でヴァルベルトは黒いマントの男達と居た。マントの男達は横一列に配置されたテーブルに着席し、ヴァルベルトはその男達に向かって立っている。まるでヴァルベルトが尋問を受けている様だった。男達はバラモス派のメンバーだった。
スーベニア神聖国が中心となって大陸全土に普及させた宗教は統一教と呼ばれる。その統一教には古来からの規律を重んじる古道派と時代に合わせた変化を望む新道派があり、現在は新道派が多数を占める。かと言って古道派が隅に追いやられる様な事はなく、古道派と新道派で棲み分けが出来ている。ジークを助けた枢機卿やミリアは古道派で、紋章に関する情報の統制は古道派の役割だ。その古道派から別れたのがバラモス派だった。
古来からの伝承には紋章に関する記述が幾つか含まれる。しかしその伝承は非常に古い言語と字体で記述されており、また一部が散逸していた。それ故に紋章に関する伝承の解読は困難で、古道派の中でも世代や地域によって解釈に違いがあった。しかしバラモス派の解釈は古道派のそれとは大きく乖離していた。紋章の力を1箇所に集めれば神界への扉が開き自分達は神の一部となれる...そんな突拍子もない解釈だった。
スーベニア神聖国はバラモス派を異端と断じ、彼等を教会組織から追放した。そのバラモス派が帝国の宮殿の一角で新皇帝と居る...この事が教会や帝国民に知れれば新皇帝は弾劾される可能性もある。そんな危険のある組み合わせだった。
「若造にはちと難しかったかのぅ、ヴァルベルトや...」
ヴァルベルトの前に座る男達はバラモス評議会と呼ばれる組織のメンバーで、この評議会はバラモス派全体の意思決定機関としての役割を持っている。その評議会メンバーの一人がヴァルベルトへ語りかけた。ヴァルベルトはバラモス派から多くの支援を受けている。黒い鎧兜の騎兵はバラモス派から貸し与えられた部隊であるし、革命時も多くのバラモス派メンバーが陰で動いた。そうした理由から、ヴァルベルトはバラモス評議会を無視する事が出来ない。問われれば答える必要があった。
「新たに聖者の力を得た、紋章の力さえ手に入れば問題ない筈だ。」
バラモス評議会の当初の目論見はハルザンド・スーベニアを征服し智者と識者の力を奪う事だった。聖者と賢者の情報は掴んでいたが、それは第二段階のアルムヘイグ征服での目標だった。しかし当初の目論みは潰え、智者と識者の力は奪えなかった。聖者の力を得たのは良いとしても、全体の状況は想定から大きく外れてしまっている。残りの紋章を手に入れる為には作戦を組み立て直す必要があった。
歯噛みしながら悔しさを滲ませるヴァルベルトをよそに、バラモス評議会の男達は何やらヒソヒソと話し続けた。