第二十一話 カーマインの反乱
ジーク 主人公 ベントリー領の領主
シンシア 主人公の妻で一男一女の母
カイン ショーウェルズ大司教の息子
ナディア 聖騎士隊の隊長
ヨルム 山岳民族の戦士
ホドム 情報部隊の隊長
マルグリット ジョルジア公爵家の長女で姫騎士
ミリア スーベニア大聖堂のシスター
フーゲル 深き森の住人
キキ フーゲルの従者だった少女
イェルガ ハルザンド王国の第一王子
イェガー 本名はイェルシア ハルザンド王国の王女
ヴァルベルト ゲイルズカーマイン帝国の新皇帝
ゲイルズカーマイン帝国は、100年以上前にゲイルズ王国がカーマイン王国や周辺の小国を吸収合併して成立した経緯がある。現在では官僚組織や法律が統一され、生活水準や文化においても地域の違いはない。表向きは。しかし実際には旧ゲイルズ国民優先の意識、それに基づく賃金格差や差別が民間レベルで根強く残り、見えない火種となって帝国内で燻っていた。
「集まってくれたようね。」
帝国の南方、旧カーマイン王国にある都市の商館の一室にナディアはいた。彼女の本当の家名はカーマイン、かつてゲイルズ王国に征服された際にアルムヘイグへ亡命した王族の末裔だった。彼女が集めたのは旧カーマイン出身者の末裔達で、役人であったり、守備兵であったり、農民であったり、その顔ぶれは様々だが、いずれも旧ゲイルズへの抵抗を目論む地下組織のリーダー達である。この商館の主人も旧カーマインの貴族の末裔だった。帝国へ秘密裏に潜入したナディアは、この商館の主人に己の身分を明かし、その伝手を通じて地下組織のリーダー達を集めたのだった。
彼らは必ずしも全員がカーマイン王国の復活を目論んでいる訳ではない。差別されている現状を変えたいだけの者、貧しさから抜け出したい者、かつてゲイルズに奪われた土地や資産を取り戻したい者もいる。しかし帝国の強力な軍事力に抑え込まれ、これまでは声を上げる事が出来ずにいた。前皇帝が他国に対して平和と調和を謳っていたのも、実際には帝国内の不穏分子を押さえ込む必要があったせいかも知れない。その帝国の軍事力が今は外へ向いている。虐げられた者達が立ち上がる絶好の機会だった。
「皆さん、我々が奪われた物を取り返しましょう。」
ナディアのこの一言が始まりだった。反乱は旧カーマイン地域の複数の都市で同時多発的に起き、その反乱の炎はたちどころに旧カーマイン地域の広い範囲へと広がっていった。反乱軍は各都市の領主や有力貴族を襲い、武器を奪い、蓄えられた金品や食糧を奪った。このカーマインの反乱に乗じる形で、かつてカーマインと同様に征服された小国の民達も立ち上がった。
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帝国は反乱当初、近衛騎士団と神聖騎士団に反乱軍の鎮圧を命じたが、スーベニア神聖国へ侵攻した事を理由に教会は神聖騎士団の出撃を拒否した。近衛騎士団だけでは鎮圧までに長い期間がかかると判断した帝国は、他国へ侵攻している軍の一部を帝国内へ戻さざるを得なかった。帝国は同時に各国へ一時休戦の使者を送ったが、全ての国がそれを拒否した。一方的に戦争を起こした帝国をその他の国々が許す筈はなかった。
反乱軍は、帝国の近衛騎士団が鎮圧に乗り出した事で勢いが止まり、他国から戻ってきた軍が加わるにつれて押され始めた。そもそも反乱軍にまともな指揮官などおらず、集団間の連携も弱い。ただ勢いで突き進んできただけ。精強で組織だった動きをする帝国軍に敵わなかった。崩れ始めた反乱軍は急速にその数を減らし、追い詰められ、最後にはナディアのいる都市に集結した。周囲を包囲された反乱軍は都市に籠って抵抗したが、最後には完全に鎮圧された。
こうしてカーマインの反乱は鎮圧されたが、帝国は多くの犠牲者を出し、治安を悪化させ、大きく生産力を落とした。それに伴って他国への侵攻軍の圧力も大幅に弱まった。
ここから帝国への反撃が始まる。