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第十六話 ジョルジア攻防戦

ジーク 主人公 ベントリー領の領主

シンシア 主人公の妻で一男一女の母

カイン ショーウェルズ大司教の息子

ナディア 聖騎士隊の隊長

ヨルム 山岳民族の戦士

ホドム 情報部隊の隊長

帝国の侵攻は速く、アルムヘイグの主力が到着する頃には、既に三分の一の国土が帝国の占領下にあり、戦線はジョルジア王都の東の荒野にまで迫っていた。この荒野でアルムヘイグは帝国軍と対峙し、敗走してきたジョルジア軍の受け入れと再配置を行なった。この荒野を帝国軍に抜かれるとジョルジア王都が陥落する。王都の陥落は王国の滅亡を意味する。アルムヘイグ・ジョルジア側は、地の利があるジョルジア兵を多数の小部隊に分け、帝国軍の側面および後方へ放ち、帝国軍の混乱を狙った。屈強な帝国軍に捕捉されれば容易に個別撃破される危険な任務だが、帝国軍を押し返すにはこの作戦しかなかった。


別ルートで侵入していたジークはジョルジア王国内の山がちな地帯を進みながら帝国軍の分隊を撃破していったが、戦況全体から見れば僅かな成果でしかなかった。それでもジークは北部からジョルジア王都に向けて進み続け、何度目かの戦闘を終えたところで、ジョルジア王都から放たれた小部隊の1つと遭遇した。小部隊は帝国軍と戦闘中で、包囲はされていないものの、かなり押し込まれている。


「先ずはジョルジア軍を救うぞ。半数は帝国軍の側面に向かえ。」


そう指示するとジークはジョルジア軍と帝国軍がぶつかり合っている中央部へと突撃した。そこには目立つ格好の女騎士と、彼女を守る数名の護衛が正面に立って帝国軍の猛攻を凌いでいた。帝国軍の一際大きな兵士が大型のハルバートを女騎士に向けて振り下ろそうとした時にジークは体当たりし、直後に斬撃を放った。突然のジークの登場に周囲の兵は凍った様に一瞬止まったが、ジークは構わず近くにいる帝国兵を斬っていった。


ーーーーーーーーーー


帝国軍を追い払った後にジークは状況を確認すべくジョルジアの兵達の元へと向かった。彼等はマルグリットと名乗る公爵令嬢が率いる小部隊で、帝国軍との連戦を強いられていたのか兵達は疲弊し、物資も残り僅かだった。


「私はアルムヘイグのベントリーから来たジークと申します。お助けできて良かった。」


ジークがそう言うと、マルグリットと名乗った女騎士の顔が僅かに引き攣った。そのマルグリットの横に控えていた老兵が前に出て話し始める。


「マルグリット様をアルムヘイグへお連れせよと仰せつかっています。」


老兵の突然の申し出に驚いてマルグリットが口を開く。


「ちょっ、ちょっと待って。急に何を言い出すの。私は国と民を守る為に戦場に来ているのです。アルムヘイグなどへは行きません。それにこの男は以前の戦争でジョルジアを敗北に追い込んだ男ですよ。あなたもその事は知っているでしょう。そんな男と行動を共にする事は出来ません。」


「お嬢様、どうかこの爺の話をお聞き下さい。確かに先の戦争で我々は敗れました。ですがそれは国と国との話であって、兵に過ぎなかったジーク殿を非難すべきではありません。加えて申せば、ジーク殿の活躍によって大義のないあの戦争が早期に終結し、双方の被害を抑えられました。寧ろ我々はジーク殿に感謝すべきなのです。」


「大義のない戦争などと...それはジョルジア王家への批判となりますよ。」


「批判になると言われるのであればその責めは今の戦争後にお受けしましょう。ですがそれはジョルジア王国が残っていればです。今はジョルジア王家を途絶えさせない事を考えるべき。お嬢様はジョルジア王の従姉妹で、王家を除けばその血筋を最も濃く引き継いでおられます。その血筋を残す為にお嬢様にはアルムヘイグへ落ち延びて頂きます。それが公爵様のご指示でした。」


「お父様がそんな事を...ですが私は未だ戦えます。王都の闘技場で負け知らずの私なら戦場で...」


「お黙りなさい!!」


老兵がマルグリットの話を遮る。その声の大きさにマルグリットはビクッと身体を震わせた。


「お嬢様お一人がいても戦況は変わりません。先程のジーク殿の活躍をご覧になられたでしょう。ジョルジアの闘技場で弱兵に勝った程度の力量などジーク殿にすれば帝国の一般兵となんら変わりません。それよりも、いつかジョルジアが再び立つ時の旗印におなり下さい。」


尚もマルグリットはそんな話は受け入れられない、自分はまだ戦えると主張したが、老兵はマルグリットを無視し、じっとジークを見つめていた。その瞳からはマルグリットを守らんとする決意が感じられた。


マルグリットへの説得に丸一日を要したが、逐次伝えられる戦況の悪化、それと父親の戦死を知って最終的にはマルグリットが折れ、一先ずベントリー領に身を寄せる事になった。山脈を挟んで反対側にあるベントリーの方が安全な筈で、そこで戦況を見守り、安全が確認されてからアルムヘイグ王都へ移動すると決まった。ベントリーへと向かうマルグリット達には案内役としてヨルムと山岳兵数名を同行させた。


マルグリットがベントリーへ向かった頃、ジョルジア王都の東では依然として両陣営による戦闘が続いていた。帝国軍の混乱を狙った作戦は一応の成果を出したが、放った部隊との連絡は途絶え、混乱がおさまると共に、帝国軍の圧力は増していった。この戦線は維持できない...そう判断したアルムヘイグ・ジョルジア両軍は、ジョルジア軍による王都での籠城、一般民のアルムヘイグへの避難を決定した。ジョルジア王家や近臣の避難も上奏されたが、なぜかジョルジア王は拒否した。アルムヘイグ兵による一般民の避難は滞りなく進められ、避難が完了した街や村は次々に焼き払らい、井戸は埋めた。この焦土作戦は帝国のこれ以上の侵攻を抑える目的だった。


ーーーーーーーーーー


ジョルジア王都での籠城戦は6ヶ月もの長きに亘って繰り広げられた。ジョルジア王は、酒食に耽っていた頃とは違い、かつての軍事力強化を図っていた新王の時のように積極的に指示を出し、時には城壁に登って兵達を直接鼓舞した。それが王としての彼の最後の輝きだった。アルムヘイグは何度か救援を試みたが、王都を包囲する帝国軍の厚い壁を突破する事はできなかった。6ヶ月後には王都の食料や軍事物資は尽き、とうとう城門が破られて王都は陥落した。数日後、ジョルジア王とその家族は斬首され、城門の前に晒された。


その光景を見てアルムヘイグ軍は撤退し、国境付近で守りを固めた。ジークは別働隊としてそれなりの戦果を挙げていたが、撤退命令を受けてベントリーへと戻っていった。


燃え盛る王都の炎がどんよりとした曇り空を照らしていた。

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