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騎士爵家三男坊の立志伝 〜The wind blowing through the kingdom〜  作者: 裏庭ジジイ
第十一部 王国を吹き抜ける風3
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第百五十九話 イェルヴェの捕縛

ジゼルは連邦の中央政庁がある都市に向かっていた。既に視界の先に都市の城壁が見える。城門の前には連邦政府の直轄軍、通常の連邦軍とは異なる装備を身に付けているのが遠くからでもよく分かった。その直轄軍の東方には連邦軍の姿も見える。


「そこで止まれ。これは一度きりの警告だ。止まらねば全力で攻撃する。」


直轄軍の中央で指揮官らしき男が声を張り上げている。それでもジゼルは歩みを止めなかった。全ての大型弩弓がジゼルを向いている。その大型弩弓から一斉に矢が放たれた。多くの矢は的を外しが、数本はジゼルの光の盾に弾かれた。神性を帯びているジゼルの近くで消滅したのではなく、盾に弾かれたというのは驚きだった。何か特別な矢を使っているのだろう。ジゼルは矢による衝撃で僅かにグラついたが、直ぐまた前へと前へと歩き始めた。大型弩弓の矢によって傷の付いた光の盾だったが、徐々に修復されていった。


「2射目を準備...放て。」


次の矢がジゼルへと向けて放たれる。1射目の結果を見て調整したのだろう。今度は多くがジゼルへと正確に向かってくる。その矢がジゼルに突き刺さろうという瞬間にジゼルは跳躍し、矢はジゼルが元いた場所を通り過ぎていった。


「3射目を準備...放て。」


指揮官らしき男がうわずった声で指示し、3射目が放たれるが結果は2射目と変わらなかった。ジゼルは尚も前へと歩く。


「こっ、こちらには多くの人質がいる。貴様が止まらねば人質は処刑する。止まれ。」


指揮官のその言葉を聞いてジゼルは歩みを止めた。すると次の瞬間にジゼルと直轄軍がいた平原を風が吹き抜け、その風が止んだ時にジゼルは指揮官のすぐ後ろに立っていた。


「えっ、あっ...」


指揮官の周囲にいた兵達がジゼルが現れた事に気付いて声を上げる。その声を聞いて振り向こうとした指揮官の首をジゼルは刎ねた。周囲の兵の何人かが悲鳴を発し、何人かがその場に座り込み、また何人かがその場から逃げ出した。数名の兵だけは果敢にもジゼルに斬り掛かったが、剣を振り下ろす間もなくジゼルに斬り倒された。


「武器を捨てろ。無駄な戦闘はするな。」


ジゼルの声が周囲に響き渡る。


「連邦直属の軍として各国の支配に深く関与したお前達には何らかの罰があるかも知れん。だが生きろ。どんなに苦しくても生き続けろ。ここで無駄に命を散らす必要はない。生きて新しい人生を見つけるんだ。もう無駄な戦闘はするな。」


そう言い終わるとジゼルは城門へと向かって歩き始めた。ジゼルの歩く先にいる兵達が道を開ける。ジゼルの言葉を聞いても尚斬り掛かってくる兵が何人かいたが、ジゼルは近付いて来た順に斬り倒していった。ジゼルは歩みを止めない。そうしてジゼルが城門の近くまで来た時、城門は内側から開かれた。


ーーーーーーーーーー


キースと指揮官を失った連邦軍主力は、アルムヘイグで王都を囲んでいたその地の連邦軍に奇襲を掛けたのち、その事を伏せたままで中央政庁のある都市に戻り、その都市の北部に幽閉されている人質達の監視の任に就いていた。既に連邦を裏切っている事はいつか露見してしまうだろう。隠し切れるものではない。その前にどうにか人質を解放したかった。


「勇者殿が現れたそうです。連邦直轄の軍とジョルジア駐留に連邦軍は城壁外に出ています。やるなら今のうちです。」


「良し、少数に分けて人質を北門から脱出させろ。勇者殿が手配してくれた救援部隊が近くまで来ている筈だ。残りは都市内に残って脱出者の防衛に当たれ。」


連邦軍主力は北門を占拠して人質の脱出を開始した。人質には婦女子や老人も多い為に時間は掛かり、その様子は直ぐに中央政庁も知る事になって多数の兵が差し向けられたが、連邦軍主力は市街の通路を塞いで固く守り、全ての人質を脱出させていた。大きく迂回して都市北部から接近したアルムヘイグ国軍は、脱出して来た人質を保護すると共に、北門から都市内へと進入し、場内の兵を一掃していった。そうしてジゼルが南の城門に到着する頃、その城門を開いた。


ーーーーーーーーーー


中央政庁の一角にある広い会議場でイェルヴェとジゼルは対峙していた。イェルヴェの周りには数人の護衛がいる。既にアルムヘイグ国軍が中央政庁に突入し、政庁にいた役人達を捕縛し始めている。その騒ぎが会議場の中まで聞こえてくる。


「お前に何の権利があって我々に攻め込んだんだ。」


もうイェルヴェに逃れる術は無い。収集した精霊石のカケラやら神樹の枝やらの一時でも神性に触れたと思われる材料を使ってキースが試作した大型弩弓の矢は、ジゼルの光の盾に簡単に弾かれてしまった。手元には神装具と王者の精霊を封じた精霊石もあるが、僅か数回しか使えず、とても勇者を倒せるとは思えない。そもそもイェルヴェに戦闘力など高が知れている。


「その言葉はそのままお返ししよう。お前達は謀略によって多くの人々を弑し、また武力によって国々を強制的に支配した。お前達にそんな権利はない。」


「我々は秩序によってこの大陸に平和を齎そうとしただけだ。」


「誰にとっての秩序だ。単にお前達にとって都合が良いというだけで、人々の平和の為ではない。お前達が齎したのは恐怖による支配だ。」


ジゼルはそう言いながらイェルヴェへと近付く。護衛達が斬り掛かって来たが。ジゼルは一瞬のうちに全員を斬り倒した。そうしてイェルヴェの目の前に立つと、その喉元に光の剣を突きつけた。観念したのか、イェルヴェはその場に崩れ落ち、後から入って来たアルムヘイグ兵に捕縛された。

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