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騎士爵家三男坊の立志伝 〜The wind blowing through the kingdom〜  作者: 裏庭ジジイ
第十一部 王国を吹き抜ける風3
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第百五十六話 連邦指揮官の裏切り

連邦軍の主力を率いてカーマインへと来ていたキースは、依然として反連邦の武装組織を撲滅出来ずにいた。武装組織は連邦軍の網を掻い潜って弱い所を攻め、軍が到着する前に立ち去ってしまう。なかなか尻尾を掴ませない武装組織にキースは苛立っていた。居どころがはっきりしているカーマイン国軍の相手は容易で、カーマイン側が反連邦の態度を見せた時点で散々に痛めつけている。だが武装組織の撲滅については進展がない。


武装組織に襲撃されるのは都市周辺を哨戒している小部隊であったり、ジョルジアからの街道を進む輜重部隊であったりで、主力本体には手を出さない。どうやって武装組織は部隊の配置を掴んでいるのか...それはホドムの諜報部隊によるのだが...キースが知る筈もなく、何ら有効な手立てを打てずにただ兵を消耗している状況だった。既に死傷者は1000に近い。そんな状況下でスーベニア陥落の報がキースの元に届いた。イェルヴェからの指示はアルムヘイグとジョルジアの国境にある中央政庁の守りを固める事だった。


「行き掛けの駄賃にスーベニアを落とした奴等を片付けておくか。」


キースは気持ちを切り替えてスーベニア経由で中央政庁へ戻る事を決めた。本来はジョルジアへの街道を通って真っ直ぐに中央政庁へと向かうべきなのだが、どこかでひと暴れしたいというキースの我儘でスーベニア経由となった。


ーーーーーーーーーー


カーマインとスーベニアの国境付近は山がちで、街道が通ってはいるが、その街道の幅は狭く、大軍での移動には適さない。かつてゲイルズカーマイン帝国がスーベニアへ侵攻した際にそれを食い止めたのはこの地形の恩恵によるもので、守る方が圧倒的に有利だった。だが、それは戦力が拮抗している場合の話で、未だ十分な戦力を確保していないクリス達にとってキースが率いる連邦軍主力を食い止める事は難しかった。高台を抑えて連邦軍に攻撃を加えたとしても、或いはまた爆薬を使って被害を与えたとしても、連邦軍の多くは無傷で通ってしまうだろう。


「ジョルジアを通って帰ると読んでいたのだけど間違ってしまったわ。一先ず、正面はテラスゴさんとゴードさんに任せましょう。その他は高台からの遠距離攻撃のみ。どちらも足留めが目的よ。マリエラにも連邦軍後方の撹乱をお願いしましょう。その間にこの都市の防衛を強化するわ。」


クリスにしては消極的な策だが、実際問題として他に有効な手段はなかった。スーベニアへと集まった信者を見捨てる事は出来ず、また北からの物資補給の経由地である港を手放す事も出来ない。今のスーベニアを守り切るしかなかった。


ーーーーーーーーーー


スーベニアの街道を通る連邦軍主力は、街道を塞ぐ大岩を退け、後方を撹乱する武装組織を追い払いつつ、ゆっくりと進んだ。連邦軍の最前列が山がちな地形を抜けたのはカーマインを出発してから2ヶ月後の事だった。キースの苛立ちは最高潮に達している。そのキースの前にテラスゴとゴードが立ち塞がった。


「あれが古の神々って奴か。わざわざ殺されに来たか。」


言い終わるとキースは大型の弓を構えた。その弓は炎上した大聖堂の焼け跡から回収した素材で作られた神装具で、連邦の技術力を結集した優れた作りになっている。そしてキースは剛者の精霊を封印した精霊石のペンダントを首に掛けていた。キースが紋章を光らせて神装具の弓から矢を放つと、その矢はテラスゴを掠め、更に後方へと飛んでいった。テラスゴが崩れ落ちる。危険を察知したゴードが素早くテラスゴを抱え、大楯を構えながら後方へと退がる。


「だっはっはっ。上手くいったぞ。俺の愚者の紋章は一時的に神の力を無効化できる。これなら古の神々といえど怖くはないぞ。」


勇ましいその言葉とは裏腹に、キースは地面に片膝を付いていた。神装具の使用によってかなり疲弊している。呼吸も荒い。キースの側にいた連邦軍の指揮官は彼に肩を貸して立たせ、後方へと退がっていった。その日は山間の街道を抜けた連邦軍が体制を整え、その地に野営した。ゴードはテラスゴを抱えてスーベニア中心都市へと戻っている。クリスは全ての兵に都市内への移動を命じ、籠城戦の準備を始めていた。


ーーーーーーーーーー


その日の深夜、キースの為に設置された天幕の中でキースと連邦軍の指揮官が翌日のスーベニアへの侵攻について話し合っていた。キースは一般の人々も討伐の対象だと言い張り、それを指揮官がどうにか諦めさせようとしていた。


「一般民も巻き込めば多くの反感を買います。更に多くの一般民が反抗します。討伐する対象は兵士に限るべきです。」


「あいつらは一般民じゃない。スーベニアに集まってる時点で反乱軍と同じだ。反乱に加担した者は討伐する。俺の指示に逆らうんじゃない。」


「お待ち下さい。考え直して...」


指揮官は尚もキースの翻意を促そうとしたが、キースは指揮官に背を向けてこれ以上の反論は許さないと態度で示した。次の瞬間...


(ずぶり)


鈍い音と共にキースの胸の中心から長剣の切先が現れた。キースの胸から大量の血液が流れ落ちる。連邦軍の指揮官がキースを背後から突き刺していた。


「あっ、えっ、何故...お前は裏切ったのか...」


「我々軍人は民衆の味方であるべきです。ですが今まで民衆を裏切り続けてしまいました。漸く元のあるべき状態に戻ったのです。」


「くそっ...かはっ...」


キースは血反吐を吐いて呆気なく息絶えた。指揮官はキースの遺体をその場に横たわらせ、その胸元にあった精霊石を砕いた。この壮年の指揮官はフーゲルとキースがスーベニアを炎上させた時から従っていた者だったが、連邦の言いなりになってきた過去をずっと後悔していた。キースが一般民も討伐すると言い出した時、この指揮官は軍人としての己の矜持に立ち戻ることが出来た。指揮官は直属の部下を呼んで後事を託してから自害した。


翌朝、連邦軍はスーベニア中心都市へと使者を出した。停戦と、連邦軍がアルムヘイグへ通行する許可を得る為の使者だった。使者はキースと指揮官の首を差し出した。

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