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騎士爵家三男坊の立志伝 〜The wind blowing through the kingdom〜  作者: 裏庭ジジイ
第十一部 王国を吹き抜ける風3
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第百五十五話 統一教信者の歌声

スーベニア中心都市へと撤退した1000を超える連邦軍は、敵へ反撃する具体策もないままに中心都市に籠り、僅か400のクリス達がそれに対峙するという奇妙な状況が続いていた。クリス達には鹵獲した多数の多連装砲や大型弩弓があり、連邦軍側としては容易に近付く事が出来なかった。


その間にマリウスは周辺の街や村を巡り、そこの住む人々にこれまでの経緯を説明した。連邦軍によるスーベニアへの侵攻、その後の連邦と加盟国との戦闘、2度にわたる北大陸への侵攻、そして勇者が打倒連邦の為に立ち上がった事など。それらの情報は、連邦が公式発表した内容とは全く異なる。しかし連邦の傲慢な態度に苦しめられた人々にとっては納得できる内容だった。


「皆さん、今こそ立ち上がりましょう。連邦を牛耳る者達を排除して、以前の平穏な日々を取り戻すのです。」


マリウスのこの呼び掛けに応えて人々が同行を申し出た。同行を申し出た者の多くが敬虔な統一教信者だった。街や村の守備兵だった者はそれぞれの武器を、農民は鍬や鋤を、鍛冶屋は金槌を、狩人は弓やナタを携えてマリウスに続いた。鉄鍋を頭に被り、鍋蓋を盾の様に構えた者もいる。だが、その他の多くの一般民は武器など持っていない。彼等は「今こそ立ち上がれ」と叫びながらマリウスに続いた。始めは数十名だった同行者は日を追う毎に膨れ上がり、1ヶ月を過ぎる頃には遂に1万を超えた。


「クリスさん、お待たせしました。」


「無事に戻って来られて良かったわ。こちらは予定通りよ。後はこの都市を解放するだけね。」


多くのスーベニアの人々を連れたマリウスは中心都市で連邦軍と対峙するクリスに合流した。人々は自発的に中心都市を取り囲み、外壁の外から中に住む住民に対して蜂起を呼びかけていたが、マリウスが統一教の讃美歌を歌い始めると、それに合わせて歌い始めた。神殿騎士や聖騎士達も歌う。暫くすると中心都市の中からも歌声が聞こえ始め、その歌声は次第に大きくなっていった。中心都市に住む住民は凡そ5万。住民が一斉に蜂起するとそれを止める手段はなく、そもそも住民に危害を加える事自体が躊躇われる。連邦の政務官や兵士達は観念し、中心都市の門を内側から開いた。


ーーーーーーーーーー


同じ頃、連邦各国の幾つかでは反連邦の機運が高まり、王家が国軍を集めて連邦軍へ抵抗の姿勢を示していたが、未だ本格的な戦闘は開始されていなかった。国軍側としては一度の戦闘で雌雄を決するつもりはない。連邦軍に勝てるとも思っていない。必ず勇者が救ってくれる。それを待てば良い。そう信じて彼等はただ固く守った。各国に分散配置されていた連邦軍は担当地域を離れる事が出来ず、結果的にスーベニアへ救援に向かう事が出来なかった。


スーベニアでのマリウスの行動を伝え聞いた各国の統一教の教会組織は、敬虔な信者を扇動し、スーベニアへ向けて行進を始めた。武器は持っていない。彼等はただ讃美歌を歌いながら歩き続けた。不幸にも連邦軍に行進を止められる集団はあったが、多くは道中の町村で同行者を増やし、或いは集団同士が合流し、大きな流れとなってスーベニアへと進んだ。連邦軍の中にも統一教信者はいて、軍令を無視して行進に加わる者が出始めていた。


ーーーーーーーーーー


スーベニアの執務室でクリスは部下からの報告を聞いていた。


「物資の補充はどうなってるかしら。」


「北から十分な量の物資が送られてきています。連邦軍が蓄えていた物資もありますので、当面は問題ありません。」


「民衆の受け入れ状況はどうなの。」


「多少の問題はありますが、概ね順調です。スーベニアへ訪れた集団毎に居住地を割り当て、仮住居の建設と、食料や衣服などの配給を始めています。一部では家具や道具の生産も行っています。」


「そう、良かったわ。防衛体制も整えているのよね。」


「はい。スーベニア防衛への参加を希望する者は多くいますので、軍務経験者を中心に採用しています。既に2000名を超え、編成後に訓練を開始しました。最終的には1万を超える見込みです。」


「完璧よ。引き続きお願いね。」


スーベニアへと集まった信者は10万を超え、続々と増え続けている。彼等が持ち込んだ食料などは早々に尽きてしまう。その為の対策の1つが北からの物資支援で、今のところは対応出来ていた。食糧生産や狩猟も始まっている。だが、このまま信者が増え続ければいつかは対応出来なくなる。アルムヘイグかカーマインからの援助が必要だった。

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