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騎士爵家三男坊の立志伝 〜The wind blowing through the kingdom〜  作者: 裏庭ジジイ
第十一部 王国を吹き抜ける風3
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第百五十話 反連邦武装組織

南の大陸の南東にあるカーマイン王国、一時期はゲイルズに支配されていたが、英雄ジークの協力者でありアルムヘイグの聖騎士隊の隊長でもあったナディアが反乱を起こし、それをきっかけとしてナディアの弟が再興した国である。しかし今現在は連邦に半ば支配されている状態にある。南の大陸の多くの国がそうである様に、カーマインに於いても連邦が送り込んだ政務官が実質的に統治を行い、王家の権限は大幅に縮小されていた。


カーマインを中心とした大陸東部では連邦が設置した施設に対する襲撃が頻発していた。襲撃者は守備兵の隙を狙って施設を襲撃して損害を与えると直ぐに立ち去ってしまう。連邦政府は軍を投入して何度も襲撃者の捕縛を試みたが、襲撃者は連邦軍の動きを事前に察知できるのか、なかなか尻尾を掴ませなかった。


この襲撃者のリーダーはナインローグと言う。元々はカーマイン王家に連なる者で、若い頃に出奔して地方都市で自由気ままに暮らしていたが、連邦のやり方が気に入らず、反連邦の武装組織を立ち上げるに至った。彼のカリスマ性に惹かれて集まる者は多く、そうした者達の手を借りて連邦施設への襲撃を繰り返していた。ナインローグにはロランとロダンという双子の兄弟が付き従っている。この2人は表向きは平民の出となっているが、実際には王家によってナインローグの警護を任されている歴とした騎士だった。そして今ではナインローグの隣にマリエラも居た。


マリエラは、南の大陸で教会所属の聖騎士隊への締め付けが厳しくなったとの連絡を受けて騎士達を北へ引き取るため、また小人族の追加の移住者を引き取るため、ゲイルズとカーマインの国境付近の海岸へ魚人族や神殿騎士と共に来たのだが、教会の動きが連邦に察知されて合流地点で戦闘となり、窮地に陥った際にナインローグに助けられていた。聖騎士や小人族は無事に北へ脱出しているが、ナインローグに助けられて以降、マリエラは彼と共に行動している。


「マリエラ、いつまでもここに居ては危険だ。」


まだ30歳を過ぎたばかりだがナインローグの長い髪には白髪が多く混じっている。その長い髪を海風に靡かせながらナインローグは隣にいたマリエラに北へ戻る事を勧める。見つめ返すマリエラの瞳にナインローグは一瞬惹き込まれる。


「あら、私が足手纏いだって言いたいの? これでも若い頃から武術と知略を仕込まれているから役に立つはずよ。それに私は連邦に多くの仲間を殺されてるの。連邦と戦いたいっていう気持ちは誰にも負けないわ。」


出奔しているとは言えナインローグは王家に連なる者だ。本来は敬語で話すべきなのだが、彼は堅苦しい言葉遣いを嫌い、マリエラにも気楽に接して欲しいと伝えている。そういうところはナインローグの魅力の一つだった。


「これまでの襲撃に協力してくれた君を見ていて優秀なのは分かってる。だが君の力はもっと重要な局面で使われるべきだ。俺達の様に泥臭い戦いは君には相応しくないと思う。」


「連邦の意識をカーマイン周辺に向けさせるのも重要な役割よ。泥臭いなんて言わないで欲しいわ。北には私よりもっと頼りになる人達がいるから、私はこっちで戦うの。」


どうにかして安全な北へ帰らせたいナインローグと、ここに留まって戦いたいマリエラ。大声で話す2人のこの会話は少し離れたところで周囲を警戒していたロランとロダン、それとマリエラに付いている老齢の神殿騎士にも聞こえていた。


「年頃の男女が海を見ながらする会話じゃないね。」


「並んだ姿だけ見てると恋人同士なんだけどね。」


「お二人とも未だご自身の気持ちに気付いてないのでしょうな。」


「あ〜〜、俺にも良い人いないかな〜」


「俺も〜」


「さあさあ、我等がここに居てはお二人の邪魔です。さっさとこの場を立ち去りましょう。」


「りょうか〜い。」


老齢の神殿騎士がロランとロダンを伴って宿泊場所へと戻る途中、近くの木々に隠れている人の気配を感じた。


「ホドム殿も自分の持ち場に戻られてはどうか。あのお二人の事はそっとしておきましょう。北への報告も無用です。」


「その様ですね。」


木陰からホドムがそう返すと彼の気配は遠ざかった。


誰も居なくなった海岸で2人は話し続けていたが、急に強く吹いた海風にかき消されて聞き取り難くなり、仕方なくそれから暫くはただ海を眺めていた。


ーーーーーーーーーー


数年後、ナインローグは国民に請われてカーマイン王国の王位に就き、マリエラを妃とした。カーマインは連邦によって何度も攻められ、その戦いの中で当時の王は戦死したが、ナインローグとマリエラは戦い抜き、その過程でカーマインの国民を纏め上げ、ついには連邦を追い出した。その結果だった。


カーマインはかつてアゼルヴェードの配下であったケララケに滅亡寸前にまで追い詰められていたが、そのケララケを倒したのはマリリアである。マリリアは処刑されてしまったが、彼女を偲ぶカーマイン国民は多い。そうした背景もあってか、マリリアの娘であるマリエラをナインローグが妃として迎え入れた事を国民は大いに歓迎した。


2人はカーマインを良く治め、いつまでも仲睦まじい王と王妃として国民に慕われた。

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