第百四十九話 三柱の眷属神
連邦軍は、まだかなりの兵力を残してはいたが、ジゼルの姿を見て戦意を喪失し、大人しく南の大陸へと戻って行った。ガイ達は3度目の襲撃を警戒したが、ホドムに報告によれば、今のところその気配はない。ガイは古の神々と今後の対策について話していた。
「今回の連邦の襲撃で多くの族人を失った。その影響で力を殆ど失った神もいる。具体的には妖精族と鳥人族だ。どちらも打たれ強い種族ではないので仕方がない。今後は上空からの支援を期待するな。」
神々はそれを信仰する者が減れば力を失う。下界に存在してる古の神々も例外ではない。連邦からの度重なる襲撃で族人が減れば、力を失う神がいても仕方なかった。幸いにも完全に神格を失った訳ではない様だが、これ以上の族人の減少を防ぐ為に、妖精族と鳥人族の参戦は諦めるしかない。
「ところで、ジゼル様のあのお姿はどういう事だったのでしょうか?」
「おそらく神としての力が目覚めたのであろうな。しかし、あの時にジゼルが発した波動というか圧力は尋常ではなかった。全盛期の我等とてあれ程の力を持っておらなんだ。」
「そうじゃ、儂もそこが気になった。あれ程の神威じゃ。かなり高位の神格である事は間違い無いじゃろう。」
「ジゼル様の周囲に浮いているあの光も関係しているのでしょうか?」
「あの光からも微かに神性を感じる。もしかするとジゼルに力を貸しているのかも知れん。紋章の精霊とかいう奴等とは違う様だがな。」
ジゼルが神の力を発揮して以降、ジゼルの周囲には3つの淡い光の様な物が浮いているが、その光が初めて現れた時をガイは近くで見ていた。光が現れた時はジゼルの強い光があった為に何かの影かと思えたが、今は淡い光だったのだと分かる。その光が移動すると、光の周囲の空気が揺れて何かの形が薄っすらと浮かび上がるが、あまりに一瞬で、それが人型であるという程度しかガイには分からなかった。
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夕陽の見える高台でジゼルは3人の女性の姿をした淡い光と向き合っていた。淡い光は、他の者にははっきりと見えない様だが、その光に包まれた姿が誰なのかジゼルには分かる。ジークであった時に、或いはジュードであった時に共に生きた者達だ。中央の女性がジゼルの手を取る。触れる事もできる様だ。
「なぜ君達が...」
(ずっとそばに居たのですよ。あなたが神として目覚めたので漸く見える様になっただけ。)
ジゼルの疑問にシンシアの姿をした光がジゼルの頭の中に直接話し掛けた。シンシアのその姿はアルムンドで再会した15歳の頃の様だ。そのシンシアを中心に、左右にはイェルシアとマリリアがいる。2人も同じ年頃に見える。いや違う、もう見た目など関係ない存在なのかも知れない。
(そうよ。シンシアはずっとあなたを支えていたの。あなたがアゼルヴェードと戦い続ける事が出来たのはシンシアの加護のお陰でもあるのよ。途中からは私も、それに今はマリリアも支えているわ。)
イェルシアによれば、生前の功績を認められたシンシア達は主神によって死後も下界に留まる事を許され、加護という形でジゼルに力を与えていたと言う。シンシアは勇者の力を高め、マリリアは癒しを与え、イェルシアは創造の力で能力を与えているらしい。マルグリットは紋章を持たない為に、イェリアナとシルリラは功績がなかった為に、下界には留まれなかったそうだ。
「君達も神になったのだろうか?」
(そうですけど、私達への信仰はあなたの存在が前提になっています。独立した存在ではないですし、あなたよりずっと低い神格でもあるので、あなたの眷属神という事になるのでしょう。)
(私達はあなた以外の人達に姿を見せる事も話しかける事も出来ないわ。あなたの為だけの存在なのよ。そうなる事を私達は選択したの。これからはずっと一緒よ。)
(私の場合は贖罪の機会を与えられただけなのかも知れないけど、望み通りあなたの為の存在になれた。もう2度とあなたの側を離れる事はありません。)
「そうだったのか。でも君達に会えて嬉しいよ。」
第十部 完