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第百四十八話 ジゼルの覚醒

数日後、ガイ達は掃討戦に移っていた。連邦の大型船の半数は大破または中破で動かせず、残りは南へと戻って行った。後は北大陸に残った残党を片付けるだけだった。奥地に避難していた非戦闘員に死傷者はいない。しかし防衛部隊は大きく数を減らしていた。それだけギリギリの攻防だった。何とか守りきれた幸運を皆が噛み締めていた。そこにホドムからの悪い知らせが届く。


「新たに1万の兵がハルザンドの軍港に入ったそうです。」


その話を聞いた者達は一瞬で凍りついた。


ーーーーーーーーーー


凡そ1ヶ月後、20隻の連邦海軍の大型船が再び北大陸の沖合に現れた。その内の10隻は港へ、残りの10隻は東西の上陸地点へと向かう。陸に近づいた大型船はそこで止まり、兵達が小型船や小舟に乗り換えて上陸してくる。それを魚人族(マーフォーク)鳥人族(ハルピュイア)が妨害し、幾らかの損害を連邦軍に与えた。ここまでは前回と全く同じ流れだった。


だが、上陸した連邦軍を迎える体制は変わっていた。港周辺をガイ、西をクリス、東をマリエラが指揮するのは変わらないが、防衛部隊の減員を補う様に古の神々や鉱人族(ドワーフ)も前線に出ていた。ジゼルもガイと共に前線に出ている。この前線を突破されると奥地にある非戦闘員の避難場所まで敵を遮るものが無い。前線を抜かれない様に、必要に応じて後退しながら戦う必要があった。それも、3つの前線の位置を連動させねば、防衛線に穴が空いてしまう。


「マリエラ殿が後退を始めた様です。クリス殿も押され始めています。」


「了解だ。我々も後退して東西との防衛線を維持する。」


ホドラムの部下が各前線の状況を伝えてくれるので、3つの前線の位置を調整するのは比較的容易だった。また古の神々やジゼルが前線に出ているので、連邦軍にかなりの損害を与えている。だが、やはり連邦軍の数が多い。古の神々には普通の攻撃が効かないとは言え、一度に100人を相手に出来る訳ではない。数人の兵が神々を囲んで防御に徹している間に他の兵が横をすり抜けようと前進する。それを一般の兵が阻止するのだが、どうしても被害を出してしまう。徐々に防衛部隊の数は減っていき、後退して前線を再構築するしかなかった。


10日もすると3つの前線は非戦闘員の避難場所の近くまで後退させられていた。避難場所の防壁の前には負傷して前線を離れていた兵達が立っている。フローラや医療班の応急処置は受けたのだろうが、未だ動くのは困難な筈だ。かなり無理して出て来たのだろう。その負傷兵や、防壁の中へ連邦軍は矢を放ち始めた。防壁の中から悲鳴が上がる。古の神々が体を張って矢を防ごうとするが、半分も防げない。


「やめろ、一般民を巻き込むな。」


ジゼルは勇者の紋章を光らせながら矢手のいる場所へ突っ込んでいったが、連邦軍の前衛に阻まれてなかなか進む事が出来ない。逆に多数の敵兵から攻撃を受けて光の盾や鎧が削れていった。ジゼルを救おうとガイが後から斬り込み、ガイの抜けた穴をクリスとマリエラが素早く塞ぐ。しかし彼女達も余裕がある訳ではない。防衛線が薄くなった所を連邦軍に突かれて苦しく状況になっていった。


「やめろ、やめろ、やめろぉぉぉぉ...」


ジゼルは叫びながら尚も周囲の敵兵を斬り捨てて矢手へと向かう。だが、連邦軍の前衛を突破できない。大量の矢が避難場所へ放たれ続けていた。その中には火矢も含まれ、避難場所から炎が上がり始めていた。避難場所から聞こえる悲鳴が大きくなる。無理をして出て来た負傷兵も1人2人と倒れていく。ジゼルを追って来たガイも傷を負っていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ...」


ジゼルが一際大きな声で叫ぶ。その声に応じる様に紋章の光は更に強く輝いた。その眩しさに目が眩んだのか、連邦軍の兵達がジゼルから少し離れた。その時、どこかから現れた3つの人型の影がジゼルに寄り添う様に彼を包むと、ジゼルの背には大きな翼が現れて次第に浮き上がり、同時にジゼルから強烈な衝撃波が広がった。ジゼルを囲んでいた連邦軍の兵達が吹き飛ばされ、その波は更に周囲へと伝播し、連邦軍の兵士達は動きを止める。ある者は茫然と立ち尽くし、またある者は膝を地面につき、皆一様に空中に浮かぶジゼルを見つめていた。


「うわぁぁぁぁぁぁ...」


ジゼルは叫び続ける。光り輝き翼を広げたジゼルのその姿は、かつての帝国との戦いで見た、あるいは他者から伝え聞いた勇者ジュードの様であり、また同時に統一教信者であれば誰もが教会で目にした事のある宗教画の中の神の御姿の様でもあった。


「連邦軍を押し返すなら今よ。」


クリスのその言葉で我に返った防衛部隊は連邦軍へと一斉に突進し、動けなくなっている敵兵を次々と倒していった。ガイやマリエラも剣を振るった。後方からは生き残った森人族(エルフ)が連邦軍の後衛へ矢を降らせていた。

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