第百四十七話 北の大陸での攻防
港に向かった連邦軍は凡そ5千人、その内の1割弱は上陸前に海へと沈められた。また上陸後の高台の攻防で更に1割の損害を出していた。敵に与えた損害は僅か数十人。初戦は大敗したと認めざるを得なかった。これを挽回する為、連邦軍を率いていた指揮官は軍を4隊に分け、その内の2隊で昼夜を問わず高台を攻め、残る2隊は高台を迂回して奥地へと進む事を決めた。編成を終えると、最初の部隊が夜の高台へと向かっていった。この様子は夜陰に紛れて偵察していたホドラムの部下を通じてガイも把握していた。
「鳥人族と魚人族は大型船を攻略してくれ。なるべく犠牲を出すな。」
ガイの指示を受けて、鳥人族は上空から火のついた油壺を投げ落として港に停泊する大型船を炎上させる為に、魚人族は沖合の大型船の船底に穴を開けて沈める為に、行動を開始すべく海へと向かった。
「残りは高台を死守する。迂回して奥地へ向かう敵は後ろの方々に任せよう。」
既に連邦軍の1隊が高台へと近付いていた。森人族が高台の周囲に火矢を放って灯りとすると、暫くして連邦軍の先頭が見えた。
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北大陸の東西でも戦闘が行われていた。西はクリスが、東はマリエラが指揮していた。連邦海軍の大型船の半数が港へ向かった為に東西の上陸可能地点に向かった大型船は少ないが、東西ともに複数の上陸地点があり、それら各地点の状況に応じて防衛部隊を指揮する必要があった。初日が終わった時点ではクリスだけでなくマリエラも連邦軍を抑え込めていた。マリエラの横にはクリスが付けてくれた老齢の神殿騎士がいて、彼の助言によって危機的な状況とならずに済んでいた。
「港と西の状況はどうなっているのでしょう。」
「マリエラ殿、ガイ殿もクリス団長も経験豊富です。それに後方にはジゼル殿と古の神々が控えています。心配する必要はありません。私達は目前の敵に集中しましょう。」
「そっ、そうですね。分かりました。」
「明日はどう動きましょうか。」
「南側の海岸を守る兵を少し減らして北側に回しましょう。でもその前に夜襲の警戒ですよね。今夜は索敵を増やして下さい。出来ればこちらからも仕掛けたいので、夜明け前に鳥人族に上空から襲撃させる事は可能でしょうか。」
「良い判断です。兵の移動と鳥人族への指示は私がやっておきましょう。マリエラ殿は明日に備えて早めにお休み下さい。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて休ませて頂きます。」
マリエラは簡易テントに潜り込んだ。初めての実践経験に興奮して寝付きは悪かったが、疲れが出たのか、いつのまにか眠っていた。
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「2方向から連邦軍が迫っています。」
非戦闘員が避難している奥地を守っていたジゼル達に連絡が入ったのは連邦軍が上陸してから数日後の事だった。敵軍の兵数は計2千ほどだった。
「東側は僕と鉱人族で対応します。テラスゴさん達は西側をお願いできますか?」
「了解だ。無茶をするなよ。」
鉱人族は、身体は小さく移動速度も遅いが、巨人族に次ぐ膂力と、多種族を圧倒する頑丈さと持続力を兼ね備えており、また彼等が振り回す長柄の戦斧は相手の鎧を易々と両断する。何より彼等の陽気さは周囲を和ませた。最後の防衛線を守るのにこれほど頼もしい者はいなかった。
「鉱人族の皆さんは防壁の前で待機していて下さい。僕が敵兵を誘い込みます。」
「頼むぞジゼル坊。」
「ジゼル坊、こっちに敵が来たら全部やっつけてやるぞ。」
「僕はもう15歳だから坊やじゃないですよ。」
「わっはっは。儂等からすればジゼル坊はいつまでもジゼル坊だよ。」
ジゼルは苦笑いしながら連邦軍が来る方向にある森へと入って行った。森深くに入って暫くすると連邦軍が近付く気配を感じ、ジゼルは茂みの中に身を潜める。連邦軍は森の中の細道を縦列で進み、ジゼルは近くを通り過ぎる兵数を数えていた。その数が500となった所でジゼルは茂みを飛び出て、近くの数名を斬り倒し、直ぐまた茂みの中へ逃げた。多くの兵達がジゼルを追う。ジゼルは追ってきた兵の何人かを斬りながら尚も森の中を進み、鉱人族が待つ場所へと近付いていった。
防壁の前に並んでいた鉱人族は光を纏いながら森から出てきたジゼルを見た。多くの連邦軍の兵達がジゼルに続いて森から出てくる。陣形も何もない。ただジゼルを追ってきたままの状態だった。森を出たあちらも鉱人族が待ち構えていたのを視認したであろう。いまさら陣形を整えても仕方がないと判断したのか、何人かは鉱人族へと向かってくる。連邦軍のその兵士達を鉱人族の戦斧は真っ二つに両断した。