第百四十六話 連邦の大艦隊
ハルザンドの軍港に1万を越す兵が入ったとの連絡を受けたのはそれから2年後、ジゼルが北の大陸に着いてから4年後の事だった。この2年間、連邦政府は大陸東部と西部の国々を攻略し、アルムヘイグと同様に全ての国に政務官を置き、各国国軍を縮小し、王家の権限を大幅に縮小させていた。実質的に南の大陸全土は連邦政府の統治下に入った事になる。それらをやり終え、連邦は北大陸に攻め入る段階に移っていた。
次々と軍港を出る新型の大型船は軍港から離れた地点でも目撃され、その情報はホドムを通じて北の大陸へと伝えられた。北の大陸ではこの日の為に準備が進められていた。港だけでなく、上陸可能な全ての地点には堅牢な砦を築いている。族長達からの指名を受けたガイは、防衛戦の総指揮官として全軍を配置すると共に、非戦闘員を奥地へと避難させた。周辺の海域では魚人族が海上で、鳥人族が上空で周囲を警戒していた。
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ホドムからの連絡を受けてから30日後、沖合に20隻の連邦海軍の大型船が発見された。そのうちの10隻はガイが守る港へ、それ以外の大型船は5隻ずつに分かれて東西の別の上陸地点へと向かった。港に向かった10隻の大型船は港から離れた沖合で一旦停泊し、乗船していた兵達は大型船に曳航されていた小型船に、あるいは大型船の船上に乗せていた小舟に乗り換え、次々と港への上陸を目指した。かなりの数の小型船や小舟が漕ぎ出した後に、大型船は再び港へ向けて進み始めた。
「守りの硬い大型船は無視しろ。上陸しようとしている小型船を狙え。」
ガイのこの指示で港から魚人族が乗った小舟が一斉に漕ぎ出す。この小型船は喫水線下の先端部分に鋭い突起があり、全体的に縦長の形状をしている。通常の小型船より速度が早く、突起で敵船の横腹に破孔を穿って沈没させる為の船だった。魚人族達は近付いてくる敵の小型船に突撃して穴を穿つと、自分達が乗ってきた船に火をつけ、敵兵と戦う事なく直ぐに海の中に飛び込んだ。横腹に穴を空けられた敵船は兵を乗せたまま沈んでいった。
上空では鳥人族が待機していた。鳥人族は、実際に飛べるのは彼らが崇める神のみで、一般の族人は鳥の様な翼を持たない。だが、風を読む事に長け、大きな布製の翼を使って空へと舞い上がる事ができた。彼等は海上から放たれる矢で落とされる者もいたが、多くは巧みに避けながら敵兵の乗った小舟に接近し、真上に来ると火のついた油壺を落とした。小舟は炎上し、兵達は海へと飛び込んだが、重い装備の為にそのまま沈んでいった。
魚人族や鳥人族の活躍で少なくない敵船を沈めたが、連邦軍全体から見れば1割弱の損害でしかなかった。残った連邦軍は次々と上陸し、内陸に向けて進軍を開始した。大型船の4隻も港に接岸し、更に兵を上陸させると同時に、船上に設置した多連装砲で周囲の建屋を爆破していった。
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ガイは200人ほどの兵士を引き連れて港から内陸に入った先にある高台に陣取っていた。大型船からの多連装砲は届かない。簡易な防壁もあり、進軍してくる連邦軍へ一方的に矢を放つ事ができた。森人族が放つ矢によって連邦軍の兵士が射殺されていく。しかし連邦軍側は大楯に身を隠して被害を抑えながら進軍を続け、高台の下まで到達していた。先頭の兵士が高台へと続く坂を登り始める。
「落石準備。やれ。」
ガイの指示で巨人族が高台から大岩を落とすと、大岩は連邦軍の兵士を潰しながら坂を下っていった。巨人族が続けて大岩を落とす。だが、連邦軍の兵士達は坂を登り続けていた。
「森人族と巨人族は攻撃を続けろ。坂を登り切った敵兵は俺と龍人族で斬る。」
既に連邦軍の何人かの兵が坂を登り切っていた。ガイはその兵に向けて突進し、一撃で切り捨てた。龍人族もそれに続いて兵に斬り掛かる。激しい斬り合いが始まった。森人族と巨人族の攻撃によって坂を登り切る兵士は限られ、ガイ達はどうにか高台を守れていた。
戦闘は長く続き、ガイが率いる兵士にも犠牲者は出ていたが、陽が傾き始めると、連邦軍は港へと戻っていった。