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第百四十四話 連邦加盟国の敗戦

アルムヘイグが連邦に降った事で連邦に加盟する各国の警戒感が一気に膨れ上がったが、東西で連邦政府への対応が異なった。


ハルザンド、アルムヘイグ、スーベニアの3カ国は連邦政府の統治下にあり、大陸中央にあって東西を分断している。そのうちハルザンドとアルムヘイグの西方には小国が多数あり、昔から西方諸国と呼ばれ、脅威が迫った時に一致団結する傾向があった。だが、西方諸国はいずれも鉱物資源などは豊富だが、農業生産力は低い。資源を他国へ販売し、その代金で食物を輸入する必要があった。連邦に大陸中央部や東部との交易を止められると、すぐに干上がってしまう。その為、隣接するハルザンドとアルムヘイグを統治下に置く連邦に強い態度を取れなかった。


一方の大陸東方にはゲイルズ、カーマイン、ジョルジア、それと幾つかの小国がある。元々はこれら東方の国々が連邦を作ったのであり、自分達が連邦の主体であるという認識が強かった。またこれらの国々、特にゲイルズとカーマインは豊かな国であり、大陸西部への依存度は低く、連邦政府に対して強い態度に出る事が可能だった。アルムヘイグの件を知った大陸東部の国々は連邦政府へ武力をもって抗議する事を決めた。


連邦軍は加盟各国から派遣された軍の寄せ集めであり、大陸東部の国々が呼び掛ければ、連邦軍兵士の多数は連邦を離れるだろうという読みがあった。アルムヘイグが連邦に降ってから1年後、大陸東部の国々はジョルジアに8万の大軍を集めてアルムヘイグとの国境にある中央政庁のある都市へと迫った。これに対する連邦軍は僅かに3万だった。


ーーーーーーーーーー


中央政庁の庁舎がある建屋の一角で紋章持ちの3人は話していた。


「イェルヴェ、東部の連中の要求は何だったんだ?」


「戦時措置法の解除と議会の再開、それと政府閣僚の入れ替えだ。要するに東部の復権を狙っているんだろう。」


「はっ、今更だな。大人しくしてれば暫くは延命出来ただろうに。」


「時代の変遷について来れない奴は何処にでもいるさ。さっさと退場して貰おう。それより、連邦軍の編成はどうだ。」


「東部出身者は武装を取り上げて後方に下げている。フーゲル直轄の兵が付いてるから問題ないよ。ここを守っているのはハルザンドとアルムヘイグの兵が中心で、スーベニアの兵はいつでも動かせる状態で待機させてるよ。」


「一見すると相手は3倍近い兵力だが、半数は農民兵だ。戦闘が激化すれば脱げ出すだろう。こちらにはキースの新兵器もあるし、負けることはないだろう。」


「では始めようか。」


ーーーーーーーーーー


中央政庁がある平原の東側で両軍は対峙していた。東部加盟国の軍を率いている指揮官は相手が都市に篭らずに平原で対峙している事に驚いた。3倍近い兵力差だ。まともにぶつかれば勝敗は明らか。何か策があると予想したが、いくら索敵させても敵の増援などはなかった。考えても仕方ない。指揮官は整然と並んだまま軍を前進させた。


そろそろ弓兵による一斉射撃が可能になる場所に着くという距離まで進んだ時、連邦軍から何かが飛来し、前線部隊の中程に落ちて爆発した。前線部隊に動揺が走る。まだ弓が届く距離ではない。何が起きたのかと指揮官が思考を巡らせていると、同じ様なものが次々と飛来し、前線部隊の複数箇所で爆発が発生した。その度に数人の兵が吹き飛ばされているのが後方からも見えた。


「前進しつつ兵をバラけさせろ。纏まっていてはアレの(まと)だ。」


指揮官は指示を出したが、それが前線部隊に伝わるまでに時間が掛かる。そもそも次々と爆発が起きている前線に正しく伝わるかも分からない。爆発の煙や巻き上げられた砂埃で前方の視界が徐々に悪くなってきている。


「このままではやられる一方だ。もう構わんから突撃させろ。陣鉦を使って音で指示を出せ。」


激しく陣鉦が打ち鳴らされる。単純な指示しか出せない陣鉦が使われる事は稀で、その為に兵達は一瞬戸惑ったが、打ち鳴らされ続ける陣鉦の音を聞いて誤りではないと分かり、尚も爆発が続き、煙と砂埃が充満する平原へと全軍が突撃を開始した。左右の陣にいる農民兵達もその様子を見て駆け出す。だが、視界の悪い平原を抜けた兵達が見たのは直ぐ手前にある深い堀だった。最前列の兵達は立ち止まろうとしたが、後ろから来る兵に押され、深い堀の底へと落ちていった。


「まっ、待て。陥穽だ。止まれ〜」


前列にいる兵が叫ぶが、後方の兵達があげる雄叫びにかき消された。後から後から突撃してくる兵に押され、次々と堀へ落ちていき、既に落ちていた兵を押し潰す。前面の連邦軍は弓矢や大型弩弓(バリスタ)に切り替えて次々と矢を放っていた。左右の陣にいて比較的視界の良かった農民兵達は堀の手前で止まれたが、連邦軍の放つ矢に追い立てられて後退していった。


数刻後、爆発が止み、視界が良好となった平原には、爆発や矢で殺された多数の兵と、それと同程度の数の堀に落ちて死んだ兵がいた。正規軍4万のうち生き残ったのは凡そ半数だけだった。左右の農民兵はそれぞれ1万以上が残っていたが、それを足しても全軍で4万強。既に数の優位は失われていた。指揮官は全軍に撤退を命じた。連邦軍による追撃を受けた東方各国の軍は更に数を減らした。

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