第百三十七話 北大陸での再会
ヨナに乗って港へ急行したジゼルとルナは上空で旋回しながら状況を確認した。大型船から多くの兵士が港の門へと向かい、何人かは門を乗り越えてガイと戦っている。大型船の船上に設置された大型弩弓からは火矢が放たれ、それによって周囲で火災が発生していた。
「ジゼル、どっちを助けるの?」
「港を守っている方だ。あの門の所で戦ってる人を知ってる。僕はあそこに飛び降りるから、ルルはヨナと一緒に船の大型弩弓を破壊して欲しい。」
「分かった。気を付けてね。」
それだけ会話するとジゼルは港を封鎖している門へとヨナを向かわせ、そこで飛び降りた。数名の敵兵が向かって来たが、ジゼルは素早く斬り倒した。ルルはヨナの手綱を握って大型弩弓の破壊に向かう。
「あなたはもしかして...」
「僕はジゼルと言います。加勢しますので、先ずは敵を片付けましょう。」
ガイとジゼルは門を乗り越えた敵兵を斬り倒し続けたが、暫くすると敵兵からの圧力が弱くなった。大型船の大型弩弓はルルとヨナによって破壊され、ガイは森人族を指揮して敵兵の掃討に移っている。逃げる為か1隻の大型船が離岸したが、そこにはクリス達の船が向かっていた。ジゼルは紋章の光を消し、門から出て掃討戦に加わった。
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2隻の大型船は連邦海軍の士官が指揮していたが、大型船自体は交易用の輸送船を転用したものと思われた。敵兵の多くは連邦軍所属の兵士だったが、冒険者などの所属不明の兵士も少なくなかった。捉えた士官をクリスが尋問したが、連邦政府の指示で攻撃したと言うだけだった。ただ、南の大陸の状況について幾つかの情報を得る事が出来た。
「スーベニア神聖国で神殿騎士達が反乱を起こし、教皇を殺害のうえ、大聖堂を含む周辺を焼き払ったと聞いている。その反乱を唆したのが北の大陸の族長達で、北の大陸に逃げ込んだ神殿騎士達を捕える為に連邦海軍に攻撃命令が出された。」
「酷い話ね。連邦軍がスーベニアへ侵攻したのが原因で、私達は教皇様の指示で逃がされただけよ。大聖堂を燃やすなんて、まして教皇様を手に掛けるなんて考えられないわ。」
「もちろん我々もそれを信じている訳ではない。我々も統一教の信者だ。神殿騎士が教皇に絶対の忠誠を誓っている事を知っている。ただ、連邦政府の公式発表がそうだと言うだけだ。平民の中にはその発表を信じる者も少なくない。」
「各国政府や連邦議会は何をしているの。」
「連邦政府によって戦時措置法が適用され、現在は軍事命令権や立法権の多くが連邦政府に委任されている。それと同時に連邦議会は解散され、各国の発言権は失われた。連邦軍が各国に睨みを効かせている事もあって各国は従うしかない。」
「連邦政府の代表はアルムヘイグ王族よね。」
「表向きはそうで、他の閣僚も各国から派遣された有力者の筈だが、おそらく傀儡政府で、裏で誰かが関与していると思う。連邦軍に指示を出すのは連邦政府から派遣された者だが、身元が分からない。連邦政府の閣僚や役人ではあり得ない事だ。」
「そこまで分かっているのに軍はなんで従ってるのよ。」
「命令違反すれば粛清される。それは我々の家族にも及んでしまう。実際に何人かの上級将校が罪を着せられて粛清されている。連邦政府はその為の武装組織を持っているが、戦力的には連邦軍の一軍に比肩し得る。」
「なによそれ、まるで恐怖政治だわ。まあ良いわ。汚名はどこかで晴らすとして、先ずは連邦政府を裏で操っている者達をどうにかするしかないわね。教皇様が言っていた通りの状況なのは分かったわ。」
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港では森人族が援軍に来た者達と共に消化活動や戦死者の埋葬をしていた。捕えられた敵兵の生き残りは、港に隣接する倉庫を仮の収容所とし、そこに連行されて行った。怪我人の治療も始められている。既に陽は傾き、西の空が赤く染まりつつある。
「ジュード様、よくぞお戻りになられました。」
森人族を指揮していたガイは一通りの指示を出し終えた後でジゼルに駆け寄り、彼の前で膝を付いていた。
「ガイさん。僕の名前はジゼルです。ジュードの記憶を引き継いでますが、これからはジゼルと呼んで下さい。それと様を付けて呼ばれると落ち着かないです。呼び捨てか、あるいは君を付けて呼んで下さい。」
「申し訳ございませんが、そのご命令は聞けません。私は一生を貴方に仕えると誓っています。これからはジゼル様と呼ばせて頂きます。」
「...」
「諦めるしかないですよ。ガイは頑固者ですから、一度決めたら変えません。」
ガイの後ろからフレミアが近寄りながら言った。
「フレミアさん。お久しぶりです。」
「私はご命令通りジゼル君と呼ばせて頂きますね。またご一緒できて嬉しいです。」
フレミアの隣にはジゼルと同じ年頃のフローラ、その更に隣にはマリエラが立っていた。クリスとマリウスも駆け寄ってくる。ジゼル達は簡単に挨拶を交わした後、森人族の里へ招待された。