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第百二十六話 新興勢力の最後

ハルザンドの新興勢力の当主達、彼等は南北大陸間の交易での利益を掠め取って財をなし、(まいない)によって連邦政府ともパイプを持っている。だが所詮は地方都市の有力者でしかなく、強い政治力を持っている訳でも、危機察知能力がある訳でも、防衛策がある訳でもない。彼等の主な関心は財をどう増やすか、自身の地位をどう保つかであるが、実態はたまたま手に入れた恵まれた立場に胡座(あぐら)をかいているだけで、その立場が他者によって(おびや)かされる可能性に気が付いていなかった。


この日も新興勢力の当主達は呑気にも酒を飲みながら他愛もない話をしていた。


「また西の都市で連邦政府の監査が実施されたそうじゃないか。」


「いつもと同じで名目だけの監査さ。連邦に所属する各国に対して取引が適正だと示す為だが、監査人は買収済だ。あとはイェルヴェが連邦政府へ上手く報告してくれる事になっている。何も問題はない。」


「そっちは先月だったか?」


「あぁ、でも西と同じで問題はない。」


「ところで地下牢のあのガキの件は...」


コンコンコン(ドアをノックする音)


ドアがノックされたかと思うとイェルヴェが何人かの武装した兵士を率いて当主達のいる部屋に入って来た。兵士達は素早く部屋の窓付近や出入口に移動する。


「皆様お集まりの様ですね。急な訪問になってしまい申し訳ございません。」


「イェルヴェか。どうしたんだ。随分と物騒な訪問だが。」


「本日は皆様を横領容疑で逮捕する為に来ました。今頃は官憲が皆様の屋敷へも派遣され、証拠品を確保している筈です。」


「何を馬鹿な事を。我々、砂漠の鷹匠を裏切るのか? そうなればお前の家もお前自身もただでは済まなないぞ。」


「そうだ。お前も我々と同罪だ。いや、連邦政府の立場でありながら我々に協力していたのだから最も罪が重い筈だ。」


「私の事を気にして下さるとは、まだ人の心が残っているとは思っていませんでした。ですが、そんな心配は無用です。私に関係する証拠はどこからも出ません。以前から証拠隠滅を図っています。愚鈍(ぐどん)な皆様では理解出来なかったでしょうが。」


「そんなもの、我等が証言すれば良いだけだ。道連れにしてやる。」


「証言ですか。それも心配される必要はありません。皆様に証言する機会は訪れませんので。」


イェルヴェが手で合図すると兵が当主達を拘束した。


「ご当主の皆様は武装して抵抗して来た為にここで討ち取られるのです。」


「我々を裁判にも掛けずに殺すというのか。」


「こんな非道が(まか)り通ってなるものか。」


「非道を行って来たのは皆様も同じでしょう。その罪を償う時が来ただけです。それにしても、砂漠の鷹匠などと名乗って、笑いを堪えるのに苦労しましたよ。あなた方は狩られる側なのだから。」


イェルヴェが手でもう一度合図をすると兵は当主達を剣で串刺しにした。それを確認してからイェルヴェは兵達に次の指示を出す。


「この当主達が抵抗してきた証拠として何人かは自分の鎧にそれらしい傷を付けるんだ。念の為、この屋敷は焼き払う。屋敷の中の他の者達もまとめて始末しておいてくれ。当主達の屋敷はどうなっている。」


「既に屋敷を制圧し、関係者も始末したとの報告を受けています。」


「分かった。ありがとう。」


言い終わるとイェルヴェは一足先に屋敷を出て行った。


ーーーーーーーーーー


数日後、イェルヴェから連邦政府を通じて各国へハルザンド有力者の武装蜂起と、それが既に鎮圧された事が報告された。イェルヴェはハルザンド着任早々に事件解決させた手腕が評価され、ハルザンド政務官となって全域を任される立場となった。新興勢力が利益を中抜きしていた件はイェルヴェによって隠匿され、新興勢力によって蓄えられた財貨はイェルヴェの手に渡った。


ゴルドルの冤罪事件は、それがハルザンド有力者が仕組んだ事だったと明らかにされたが、ゴルドル自身は脱獄騒動の際に討ち取られてしまっていた。一連の経緯は北の大陸へも連邦政府から連絡し、形ばかりの謝罪と賠償が行われたが、南北間の緊張は更に高まる結果となった。

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