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第百二十四話 偽の勇者

アルムヘイグのベントリー領では既にクリスが待っていた。名目はベントリー領にある教会で行われる行事への参列と、その教会に所属する聖騎士隊との合同訓練だった。20名ほどのスーベニア神殿騎士が同行している。


「クリス殿、お待たせしました。」


「上手く運び出せた様ね。ところで、この少年がジュード様なの。随分と可愛くなられて、私の養子にしたいぐらいだわ。」


「ご冗談を。ところで怯者が動き出しています。」


「ジュード様を取り返すつもりなのね。待ち構えている場所を特定できるかしら?」


「お任せ下さい。」


クリスはジュードを引き取ると、数日間はベントリーに滞在し、その後にスーベニアへと向かっていった。その進行は非常にゆっくりとしたものだった。


ーーーーーーーーーー


ベントリーを出てアルムヘイグ王都の近くを通りスーベニア国境まで後5日程度となった街道でクリス達を待ち構える一団が見えた。街道の周囲は見晴らしの良い平原で、その更に両側には森林がある。ホドムの情報通りだった。クリスは予め決めていた位置まで進み、そこで神殿騎士達を待機させる。副官がクリスに駆け寄った。


「ざっと500、大楯は無い様です。索敵も出していません。」


「随分と舐められているわね。」


「ジュード様から奪った力を過信しているのでしょう。」


20対500、傍目には劣勢だが、クリスは気にしていない。そのクリスが立つ場所に向けて敵の一団から一騎が駆けて来た。


「スーベニアのクリス団長とお見受けする。我等は貴殿らを捕縛する。この兵力差で戦うのは無意味である。さっさと降伏する事をお勧めする。」


「何の権利があって捕縛するの? あなた達はどう見ても正規軍では無いけど。」


「我等は連邦の将来を(うれ)う有志の者である。(さら)った罪人を返せば貴殿らの罪は見逃しても良い。降伏するか否か。」


「有志の者...要するに賊ね。話にならないわ。さっさと戻りなさい。」


「愚かな、きっと後悔するぞ。」


そう言い捨てて騎馬は戻っていった。その騎馬が十分に離れたのを確認してからクリスが後ろに控えていた神殿騎士に合図を出すと、神殿騎士は空中に向けて鏑矢(かぶらや)を放った。その鏑矢(かぶらや)の音が周囲に響く。すると森林から20〜30名の複数の集団が現れた。クリスと同時期にアルムヘイグの別の教会へ行っていた神殿騎士やアルムヘイグ教会所属の聖騎士隊だった。それぞれの部隊には数台の移動式大型弩弓(バリスタ)がある。クリスの背後の神殿騎士も布で覆っていた大型弩弓(バリスタ)を露わにしていた。敵の一団が動揺するのが遠目にもよく分かった。


「さあ始めましょう。先ずは矢で徹底的に叩くわよ。」


大型弩弓(バリスタ)の強力な矢が敵に向かって一斉に放たれる。大型弩弓(バリスタ)の操作に関係ない者達も通常の弓矢を構え、向かってくる敵に矢を放っている。敵の一団は四方からの矢によって次々と倒されていった。すると一団の中から紋章の光を持つ者が現れた。その若者は大型弩弓(バリスタ)の矢を避け、あるいは剣で弾く。怯者の力でジュードから力を奪った者だろう。


「現れたわね。大型弩弓(バリスタ)はあの男を狙って撃ち続けて。その他は残敵の掃討。」


紋章の光を持つ若者はかなり粘ったが、一刻が限界だった。傷だらけになり、最後は大型弩弓(バリスタ)の矢を背後から受けて倒された。その他の僅かに残った敵は武器を捨て投降した。クリスは捕えられた残敵を横目に討ち取られた怯者が横たわる場所まで歩いていく。


「名もない偽の勇者さん。勇者の力を奪ったからといってジュード様と同じ事が出来る訳じゃないのよ。ジュード様は文字通り年季が違うわ。」


倒された名も知らぬ怯者にそう言い捨ててクリスはスーベニアへと帰国していった。アルムヘイグでの戦闘については襲撃してきた賊の討伐だったとして連邦に報告された。ジュードが目覚めたのはスーベニアに着いてからだった。

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