第百十五話 異界の神々
【登場人物】
ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉
アゼルヴェード 神帝 異界から呼び出された怪物
ミケ 怯者の精霊
王宮の中庭に設置された扉、その扉の内側から発せられる光が周囲を飲み込んでいく。その光の中には扉とアゼルヴェードとジュードだけ。それ以外は消えていった。ジュードはこの光に覚えがある。かつてジークとして魔神を追って飛び込んだ光、神界へと続く道を満たしていた光だった。実体を持たぬ者だけが存在できる世界、ジュードの肉体も神装具も光に包まれて溶ける様に消えていき、半透明の体だけが残る。その胸の中に激しく燃えるジュードの魂が透けて見える。
「ふぅ〜、疲れた。ジュードの神装具の扱いが荒いから大変だったよ。」
「もう神装具が無くなっちゃった。」
「僕達の役割はここまでの様だね。」
新装具が消えて無くなり、ミケ達も元の姿に戻っていた。
(紋章の精霊達よ、よく頑張りました。あなた達の神界への帰参を認めましょう。)
どこかから声が響いた。ジュードも聞き覚えがある。ジュード達の世界を見守る主神の声だった。その声が終わるとミケ達の体が徐々に消え始めた。
「ジュード、後は任せたぞ。」
「アゼルヴェードなんかに負けるなよ。」
「またどこかで会えたら良いな。」
そう言い残してミケ達の姿は完全に消えた。残されたのはアゼルヴェードとジュード、それに大きな扉だけとなった。
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アゼルヴェードの肉体も衣装も黒剣もジュードと同じ様に消えていき、半透明の体だけになっていた。だがその姿は、森人族の神から奪った姿ではなく、多くの触手を持つ異界の怪物の姿だった。その体の中には2つの魂が見える。1つはアゼルヴェードの、もう1つは森人族の神の魂だろう。
(ここが神界か。我はとうとう神界に入ったのか。)
怪物の姿に戻ったアゼルヴェードに発声器官はないが、響くような声が聞こえる。
「ここは神界ではない。その入口にすぎぬ。」
そう言われて、喜びを表していたのか触手を上に向けて伸ばしながら体を揺らしていたアゼルヴェードが振り向いてジュードを見る。
(なんだ、まだ小鼠が残っていたか。あぁ、紋章の力という訳か。神装具を失った小鼠に何が出来る。さっさと消えろ。)
ジュードを弾き飛ばそうとアゼルヴェードが触手を鞭のように振るう。その触手をジュードは光の盾で払い除けた。勇者の紋章の力は健在だった。紋章の光を纏うジュードの魂は更に激しく燃え上がる。
(ふん、まだ戦える様だな。だが古の神を取り込んだ我に勝てる筈などない。)
「森人族の神を取り込み切れていないのは2つに分かれた魂を宿すお前の体を見れば明らかだ。紋章の精霊と完全に結びついている俺なら勝つ見込みはある。いくぞアゼルヴェード。多くの人々を死に追いやったお前には無惨な死こそ相応しい。」
ジュードはアゼルヴェードへと飛び掛かり、一撃、二撃とアゼルヴェードの巨体を斬る。アゼルヴェードの触手がジュードを弾き飛ばしたが、すぐさまジュードは起き上がって再び斬り掛かる。光の鎧や盾が削られていくが、ジュードはそれに構う事なくアゼルヴェードを斬り続けた。
(なっ、なんだこの強さは...)
「これが多くの人々の無念を晴らさんとする意志の力だ。他人の命を粗末に扱うお前などには理解出来ぬ。」
尚もジュードはアゼルヴェードに剣撃を加えた。アゼルヴェードの反撃によって光の盾は消し飛び、鎧も所々剥がされているが、それでもジュードは斬り続ける。アゼルヴェードの触手の幾つかは切り飛ばされ、体も削り取られていった。
(そこまでです)
急に大きな声が響く。ジュードとアゼルヴェードが攻撃の手を休めて声の方向に目をやると、開かれた扉の前に三柱の異界の神々が立っていた。