第百十三話 ハルザンドへの侵攻
【登場人物】
ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉
アゼルヴェード 神帝 異界から呼び出された怪物
ガイ 武勇に優れたジュードの従者
クリス スーベニアの神殿騎士で知略の持ち主
ホドム 諜報部隊の隊長、役目を受け継いだ二代目
ホドムの諜報部隊が旧ハルザンド王都の調査を試みたが、王都に潜入する事自体が困難だった。王都の出入りは闇森人だけでそれ以外の人々の出入りがなく、諜報部隊が紛れ込む事が出来ない。夜間に城壁を越えようとしても警戒が厳しく、侵入できる余地は無かった。ただ分かるのは、城壁内に持ち込まれる食料が余りにも少ないと言う事だけだった。ハルザンドは総人口が少ないとはいえ、流石に王都ともなれば相応の人口を抱えていた。それが王都陥落した時に、あるいはそれ以降に急激に減少した事になる。
ジョルジアやアルムヘイグの王都でも、ハルザンド程ではないが、人口の減少が確認されていた。原因は戦闘による被害などではなく、帝国による占領後に幾つかの集団が闇森人によって移送された為だった。行き先がハルザンドである事は街道に隣接する都市や村に住む住民の証言で分かっている。
「おそらく多くの人々が既に亡くなっています。ジョルジアやアルムヘイグから連れ去られた時期からすると、成体の怪物が現れた事と関係あるのかも知れません。アゼルヴェードが急いで領土拡大した理由も多くの人を集める為だったのでしょう。」
「森人族の神がアゼルヴェードを呼び出した時に贄を必要したとは聞いていない。それとは別の儀式の贄としたのかも知れん。まるでバラモス派によって魔神が呼び出された時の様だが...それが事実だとすれば許せる行為ではない。」
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飛翔できるジュードや北の神々によって上空からハルザンド王都の偵察が行われた。何体かの鳥の獣人兵が妨害の為にジュード達へ向かってきたが。尽く神々によって叩き落とされていった。王都の中は、王宮を除く区画では建屋の解体が行われ、同時に幾つかの見慣れぬ施設が建築中で、街路も大きく変わっていた。予想通り普通の住民は見当たらない。見つかるのは闇森人と獣人兵だけだった。ジュードは王宮に至る経路を大まかに把握すると連邦軍が待つ地点へと戻っていった。
数日後、ハルザンド王都の攻略が開始された。今回は連邦軍だけでなくクリスが率いるスーベニアの援軍も合流していた。その連邦軍の前面には北の大陸から来た神々が立ち、闇森人や獣人兵の攻撃をものともせず王都内を進んでいく。ジュードは神々の上空に待機していた。物陰から怪物が神々を襲う事もあったが、怪物が伸ばしてきた触手を飛来したジュードが素早く斬り払い、その後に神々が投げる槍に串刺しにされていった。神々の後方には連邦軍が控え、神々が討ち漏らした敵を掃討していった。
「王都東部の制圧は完了いたしました。南部も間もなく制圧が完了する見込みです。北部と西部は建屋に籠った敵の抵抗が激しく膠着状態が続いています。」
「了解した。北部と西部の制圧を急ぐ必要はない。但し、敵に撤退の機会を与えるな。一般民の生存者の探索状況はどうか。」
「未だ一人も発見されていません。引き続き探索を続けます。」
「生存者が見つからないなんて。想定していたとは言え、最悪の状況よね。こんな状況になるまで帝国を討てなかった自分が嫌になるわ。」
「あぁ、だが今は我等が出来る事をやるだけだ。」
連邦軍を率いているガイとクリスの元には各隊からの報告が上がってくる。ジュードや北の神々は王都中央部の王宮へと向かい、連邦軍は四方の残存兵の掃討を任されていた。ガイとクリスの指揮で掃討戦は問題なく進むだろう。しかし生存者が見つからない事にガイ達は焦りと憤りを感じていた。
一方のジュード達は、王宮を囲む城壁の攻略に取り掛かっていた。かつての王宮とは違い、強固な砦の様に作り替えられている。城壁も厚くて高い。城壁の上には多数の闇森人が弓矢を構えていた。普通の軍隊であれば攻略に時間が掛かった事だろう。だが北の神々は敵の攻撃に晒されても気にする事なく城壁に体当たりを続け、また上空からは瓦礫などを投げ落とし、闇森人ごと城壁を崩していった。