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第十一話 山岳民族の来襲

ジーク 主人公 アルムンド騎士爵の三男

シンシア 主人公の幼馴染でベントリー男爵の次女

カイン ショーウェルズ大司教の息子

カインは半年程でベントリー領に戻って来たが、その変わり様には少し驚かされた。以前とは違って真新しい聖職者の衣装を纏い、立派な馬車に乗り、20名程度の騎士を従えている。長い修業をおえてカインは司教に叙されていた。


「やっと戻って来れた。王都の忙しなさは自分には合わないな。自然豊かなこっちに来るとホッとするよ。」


「王都で司教に叙されたそうで、誠におめでとうございます。」


「やめてくれよ。これから協力してやっていくんだから、もっと気楽な言葉遣いにしよう。君の事はジークと呼び捨てにさせてもらうよ。」


「分かった。じゃあおれもカインと呼ばせてもらおう。ところで護衛にしては随分と大勢を連れて来たんだな。」


「彼等は私の護衛ではなくて、ベントリーを守る為に連れて来たんだ。未だ手続きが完全には終わってないけど、近いうちにベントリーの教会に所属する聖騎士隊とするつもりなんだ。もちろん街の防衛にも協力してもらうよ。ここには聖者と賢者が居る事になるからね。黒い騎士達の件もあるし、無防備では困るだろう。」


そう言ってからカインは騎士達に滞在準備を指示し、ジークに1人の女性騎士を紹介してくれた。彼女の名はナディア、まだ20代後半に見えるが、教会所属の聖騎士団で小隊長を務めているそうだ。ジーク達は一通りの挨拶を済ませた後、聖騎士達の今後の役割や駐屯場所について話し始めた。


それから数ヶ月の間、カインはシンシアへ聖者の紋章の正しい使い方を教えた。学ばずに無理に力を行使すると体に負担が掛かるそうで、カインからその事をジークはシンシアへ説明したが、彼女も何となく分かっていた様子だった。現在のシンシアは、午前中はカインから紋章の使い方を学び、午後は治療院で実践している。過去に存在した聖者は教会に引き取られた為、聖者の紋章については教会には詳しい記録が残っている。シンシアへの指導は順調に進んだ。シンシアは外出が多くなった為、ジークは用心のために守備隊の女性隊員を護衛に付けた。


ーーーーーーーーーー


聖騎士隊の駐屯地はベントリーの教会付近に確保したが、宿舎は未だ建設中で、隊員は街の宿や教会に分散して宿泊していた。ジークは聖騎士隊には教会周辺を中心に街の治安維持を任せ、余裕が出た守備隊の半数を領周辺の警戒に回していた。その守備隊から報告があった。


「東の緩衝地帯から数千人規模の侵入者あり。」


ベントリー領の東には森が広がり、その森までがベントリー領、更に東には大きな山脈があり、その山脈が隣国ジョルジアとの緩衝地帯となっている。山脈の中には山岳民族達が少数単位で分散して住み、どの国にも属さず、独自の生活様式と文化を維持していた。彼らが作る鉄器は優れており、その技術で作った農機具と小麦などの食料との交換を求めて街へやって来る事があった。今回の侵入者はその山岳民族だろうが、数千人規模となると通常では考えられない。ジークは守備隊で直ぐ動かせる者達だけを伴って森の入り口へと向かった。話を聞きつけた聖騎士隊も遅れてついて来た。


森の入り口付近では戦闘が始まっていた。ジークは話し合いたいと思っていたのだが、先ずはこの戦闘を落つせる必要がありそうだった。守備兵と顔見知りの冒険者と、相手はやはり山岳民族で、数の多い山岳民族が押している。ジークが到着する頃には後続の山岳民族が森から現れ、徐々にその数は増えていった。


・・・相手の戦闘員は50人程か。これ以上、数が増えると厄介だ・・・


「負傷者は退がれ。新たに到着した者達で相手をする。」


ジークは傷を負った守備兵と冒険者を下がらせ、新たに連れて来た30名で相手と対峙した。戦闘が再開されると、味方の多くは数に押されどうにか敵の攻撃を凌いているだけだったが、ジークとナディアだけは鋭く敵を斬りつけていた。そうして小一時間ほど経ってくると、双方共に疲れが出始め、負傷者が増えていった。


「一番の強者と決闘させろ! そっちも怪我人を増やしたくはないだろう。」


一際大きな男が大剣を肩に乗せて前に出て来た。ナディアが前に出ようとするのをジークは制し、男の前に出て剣を構えた。相手の背丈はそれほど高くないが、筋肉質で、胸板も厚い。暫し対峙した後、男がフフンと鼻で笑ってから大剣を振り下ろしたので、ジークは横に躱した。大剣の風圧は凄まじく、大剣をまともに受ければ剣が折れてしまうだろう。


「逃げるんじゃねぇ。」


男は大剣を幾度か振るったが、ジークは身軽に躱し続けた。躱され続けた男は苛立ちを隠し切れず、迂闊にも大剣を大振りした。その瞬間、ジークは男の隙をついて剣撃を放った。男は腹部に傷を受けて膝をついたが、致命傷ではない。ジークに相手を仕留める意思はなかった。


「降参しろ。お前では俺に勝てない。」


「なにぃ、未だ負けてないぞ。こんな傷など...」


男が立ちあがろうとした時、少し離れた森の中から声がした。


「そこまでだよ、ヨルム。あちらさんの方が力量は数段上だ。それに、そもそも私達は争いに来たんじゃないだろう。」


声の主が森の中から出てきた。杖をついた老婆で、横の女性に抱えられながら歩いている。膝をついていた男は老婆の声を聞いて座り込み悔しそうにしていた。ようやく落ち着いて話が出来そうだと思い、ジークは剣を納めた。


森から出て来た老婆は山岳民族の長老の一人だった。彼女によると、まだ森の中には三千人の同胞がいて、どうにか森の恵みで食い繋いではいるが、栄養不足で動けなくなっている者が少なくないと言う。理由は隣国ジョルジアが彼らの村々を攻めた為で、多くの同胞が殺害され、ベントリー領へ来たのはその生き残りだった。彼らの望みは当面の住居と食事、それから生活の糧を得るための仕事だと言うので、移住であるなら、つまり今後はベントリー領民として生きていくならと言う条件付きで、ジークは当面の支援を約束した。

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